最終更新日(update) 2008.05.31 

平成17年度平成17年度 白魚火賞、新鋭賞   
             平成20年6月号より転載

 みづうみ賞は、毎年実施の“白魚火"会員による俳句コンテストで、今回(平成19年11月〆切り)が15回目となります。1篇が25句で、本年は応募総数71篇でした。これを先ず予選選者で35篇に絞り、更に主宰以下8名の本選選者によって審査され、得点方式で賞が決定しました。

発表
平成二十年度 第十五回「みづうみ賞」発表。
 第十五回応募作品について予選・本選の結果、それぞれ入賞者を決定いたしました。御応募の方々に対し厚く御礼申し上げます。

          平成二十年五月     主宰  仁尾正文
 (名前をクリックするとその作品へジャンプします。)   

  
みづうみ賞 1篇
麻のれん 大石ひろ女  (多久)
秀作賞   6篇
雪女郎   小林布佐子 (士別)
蒟蒻玉 牧沢純江  (浜松)
神有月   渡部美知子  (出雲)
桜鯛 野澤房子  (宇都宮)
風光る 飯塚比呂子 (群馬)
黄水仙 三上美知子 (雲南)

佳作賞 5篇
星月夜 奥野津矢子 (札幌)
寒椿  鈴木百合子 (群馬)
網繕ふ 西村松子 (松江)
同時代 大城信昭 (浜松)
蝉しぐれ 村松ヒサ子 (浜松)
     

  

 
選外 佳作 23篇
初 蝶  檜林弘一 お酉さま   清水和子
えごの花   大塚澄江   大 枯 野   竹内芳子
お 花 畑  増山正子  和紙の里 星 揚子
深 川 星 揚子 どんがら汁 高橋花梗
梅 東 風  福嶋ふさ子 去年今年 竹元抽彩
星のきらめき 西田美木子 轆轤生地 谷山瑞枝
人 間 小林さつき 浜 木 綿   小沢房子
白 寿 母 山西悦子  花 芒 大村泰子
サリー着て 栗田幸夫 家郷春秋 大庭南子
都 鳥 須藤靖子 芽 山 椒 伊藤巴江
十 三 夜 松下葉子 大 家 族 内田景子
農 学 校 浅野数方


  * 総評へ
   みづうみ賞  1篇
  大石ひろ女(多久)

    麻のれん
街道の入り組む辻や茄子の花
夏つばめ姫街道に宙返る
木下闇城井に厚き格子蓋
かたばみや家康像の足太く
竜の髭花つけてゐる出世城
風薫る天守曲輪の埋門
滝袖に烏の一羽毛繕ふ
念仏踊り見し夜の髪を洗ひけり
枇杷熟るる切り立つ崖の古戦場
紫陽花やしろがねの水響き合ひ
みづうみに航路のありし海紅豆
浜名湖の風が攫ひし夏帽子
くちなしの匂へる湖の展望所
富士山を隠しきつたる夏霞
滴りの洞の奥なる石仏
黒門のあとの楼門額の花
苔の花羅漢は黙を深くして
ほととぎす鶯張りの廊歩く
花ざくろ弁財天の鈴小さし
哲学の道に角出すかたつぶり
十薬咲く眠り羅漢の石枕
洗心の水やはらかき沙羅の花
水無月の砂丘に立てし竹の垣
生国は遠州なりしあめんぼう
  受賞のことば   大石ひろ女          


 この度、「みづうみ賞」の御連絡を頂き、驚きと喜びでいっぱいです。生前より俳句の良き理解者であった亡き夫もきっと喜んでいてくれる事と思います。
 みづうみ賞への投句も「継続は力なり」の言葉を信じ、大きな目標として参りましたが、今回はからずも受賞することが出来、本当に嬉しく思います。これも、今まで御指導くださいました、小浜史都女先生のお陰と深く感謝致しております。又、励まして下さいました句友の皆様にも、深く御礼申し上げます。
 俳句の十七文字に込める、詩情や自然の趣を、いかに簡潔に表現するか?を心掛けるようにして、これからも俳句を楽しみながら精進してゆきたいと思います。
 仁尾正文主宰をはじめ、諸先生方、今後ともよろしく御指導頂きますようお願い申し上げます。ありがとうございました。

住  所 佐賀県多久市
生年 昭和二十三年

  俳歴
昭和六十三年 白魚火入会
平成四年   新鋭賞受賞
平成五年   白魚火同人
平成十年   みづうみ賞秀作
平成十二年  みづうみ賞佳作
平成十三年  みづうみ賞秀作
平成十三年  俳人協会会員
平成十四年  みづうみ賞佳作
平成十五年  白魚火賞
平成十七年  みづうみ賞秀作
平成十八年  みづうみ賞秀作

 秀 作 賞   六篇
   小林布佐子 (士別)

   雪 女 郎
花冷えの笛をぬくむる掌
春愁の光をこぼす江戸切子
五月雨や仔牛が鼻を濡らしをり
夕顔のひらくちからを目のあたり
笛を吹くための涼しき正座かな
ひんがしを向く向日葵の盛りなり
ひとところ迅き渦あり秋の川
爽やかに振り子時計の鳴る生家
夕顔のうぶ毛やさしく実となんぬ
肌厚き硝子のランプ露の玉
牧閉ざす鳶が騒いでをりにけり
里山の影つなぎ合ふ月あかり
工房に眠る笛竹小鳥来る
尺八に漆を入るる萩のころ
紅葉且つ散る濡れ縁に腰かけて
草庵の庭に来てゐるけらつつき
真つ先に白鳥の仔が暮れてゆく
白鳥の夜目にのんどを寄せ合へる
くちずさむいろはにほへと良寛忌
紅絹をもて磨く尺八雪女郎


   牧沢純江(浜松)

   蒟 蒻 玉
寒肥をたつぷりと置く檸檬の木
日脚伸び復元すすむ棚田かな
春一番新幹線の二階席
参道の五百羅漢や春の霜
奥山の瀬の滾りけり春子採る
小流れに鍬を浸せり山笑ふ
うららかや音無く進む飛行船
百年の椎の大樹や鳥交る
杉板を井桁に乾して春深し
花の咲く蜜柑押し分け猫車
一升の糸瓜の水や朝ぼらけ
採り頃を爪で弾きて西瓜畑
文机を食み出す地図や夜の長し
髪切つてうなじの軽し吾亦紅
葉のつきし杉の丸太の稲架を組む
二つ三つ通草のはぜて厩口
脱穀の谺を返す四方の山
この先は獣道なり木の実落つ
庭先に石工来てゐる慰鶲
児の頭ほどの蒟蒻玉を干す
 

   渡部美知子 (出雲)

  神 有 月
八雲立つ出雲一望神の旅
白障子みな貼り終へて神を待つ
神迎浜に清めの塩を撒く
風に乗り白波に乗り神集ふ
海鳴りや神を迎ふる太祝詞
先導に龍蛇いただく神迎
警蹕の声さえざえと神の列
十九社に旅の荷を解く万神
お旅社に門限ありや石蕗の花
大斐伊に全き冬の虹立てり
冬日満つゆるき曲りの社家通り
算盤に新海苔の値を弾きたる
小春日や遠流の島のほのと見ゆ
外に出でよ神有月の望の夜
北吹けり反り合はぬ神おはすらし
手相見の横に据ゑたる丸火鉢
神名火の山裾走る虎落笛
冬落暉豊旗雲を染めんとす
神等去出や神立橋に風生るる
神発ちて賑はふ町に戻りけり


   野澤房子(宇都宮)

   桜  鯛
舟宿の一の膳なる桜鯛
囀のなかの仏の大き耳
花の荷を解きて朝市春めきぬ
回廊に東風吹きよする浮御堂
海苔掻女波襲ふたび呼び交す
百僧の経の揃へる涅槃かな
源氏蛍平家蛍や籠ひとつ
空梅雨や海女が焚きつぐ煮干し釜
梅を干す筵一枚敷き足して
百枚の雑巾干され夏行かな
橋くぐり橋くぐりては水涼し
厠にも清水ながるる坊泊り
施餓鬼寺厨で餓鬼の飯を炊く
一管の鳴り出づ月の能舞台
十六夜の窓開けてゐる癌病舎
教会は弥撒の刻かも木の実降る
大道芸飽かず見てゐる小春かな
鰤起し鳴りて糶市活気づく
初景色熊野鴉の飛ぶばかり
御饌米加へ七草粥を炊く


   飯塚比呂子 (群馬)

  風 光 る
湧き上がる水に力や初不動
雪晴れの空あをあをと遠筑波
竹林に風のささやき春隣
削りたる鉛筆にほふ春の宵
せせらぎに風湧き柳絮飛びにけり
宿駅の戸毎に屋号つばめ来る
寧日の土やはらかに耕せり
グランドを駆くる子跳ぬる子風光る
日いつぱい山に遊んでみどりの日
若葉風ホルン奏者の髪にかな
傘畳むいとまなく降る山開
瀧壺の日の斑にはしる魚影かな
爽やかやサラブレットの長き脚
蓑虫の大きな蓑でありにけり
待宵の組みて置かるる琴の爪
稲雀日毎かしこくなりにけり
ひとり居の縁に揺り椅子小鳥来る
犬の尾のくるりと巻ける小春かな
小さき手に吹いて移せる雪蛍
冬雲の日矢を斜めに零しけり


 三上美知子(雲南)

  黄 水 仙
木を倒す合図の笛や冴返る
島山に鳥居の見ゆる春しぐれ
黄水仙水弾ませて瓶洗ふ
春山のふところ深く納め杖
雛納む蔵の階段軋ませて
たんぽぽの絮一斉に飛ぶ日かな
つと動く浮葉や亀の現るる
万緑の駅に改札口一つ
ががんぼを翔たすや息を吹きかけて
向日葵や帽子を取つてお辞儀の子
奉納の点字経本白桔梗
結願の笈摺畳む竹の春
小鳥来る町の高きに小学校
磐座へ罷る小道や雁渡し
巡業の力士幟や草の花
日を返す十一月の屏風岩
茶の花や伝承館に機の音
餌買うて鳩と遊べり日短か
橋ありて人柱の碑風花す
荒行の水汲み置かれ寒の月

 佳作賞 五篇
  奥野津矢子 (札幌)

  星月夜
靴底を洗うて入るお花畑
鈴の音に合はす登山の一歩づつ
子鴉の不安になれば羽搏きぬ
森のこゑ届けて厚き落し文
落つるより術なき滝の落ちにけり
今だから言へる話や紫蘇ジュース
化粧水ぱんぱん叩く巴里祭
青ぶだう句碑の謂れの石鏡
夏火鉢雲の色せし灰均す
人寄せて人驚かす鳥兜
早稲を刈る鍵の要らない農具小屋
小豆積む母の指図に従うて
種茄子と決めてリボンを結びけり
母と居て途切れぬ話星月夜
秋深し声聴くだけの親孝行


   鈴木百合子 (群馬)
    寒 椿
軸足を低く鳥追太鼓打つ
寒椿茶碗の尻の窯印
浅春の廻廊に柝吊しあり
畦道の弛み初めたる雪間かな
雛の間の二燭の明かり残しけり
花の夜やたまはる帯の綴れ織
青蛙葉になりきつてをりにけり
煙突に酒屋の屋号雲の峰
文殻をひとつに括り夜の秋
昂ぶれる神馬なだむる花芒
棟上げの掛矢打ち合ふ鵙日和
実むらさき香焚き込むる陶芸展
墨継ぎのなき句短冊冬銀河
飴色の竹の物差し伸し餅に
日曜の佳き日選みて松迎ふ


  西村松子 (松江)
 
  網 繕 ふ
立秋のみづうみに浮く嫁ヶ島
首伸ばしのばし刈田へ雁急ぐ
田仕舞の煙古墳の裾野這ふ
神迎空港に灯の濃く点きて
冬たんぽぽ絮に湿り気ありにけり
樗の実やや厚き雲通り過ぐ
みづうみの藍引き絞る鱸網
焚火して戻り舟待つ漁師妻
柴漬の水の重さを引き上ぐる
北山に雲触れ冬の雷走る
神等去出の夜の築地松がうと鳴る
汀まで日暮来てをり枯真菰
白魚網干す竹竿の撓ひたる
舟小屋のすこし傾ぐや草青む
網繕ふ春の光を手にあつめ


  大城信昭 (浜松)

  同 時 代
描き終ふるエンジン図面春立つ日
つちふるを天変地異と畏れけり
口を衝く寮歌も花の加賀城下
瓔珞のピアスの少女春の風
春宵や万年筆はモンブラン
滾つ瀬に魚翻る夏は来ぬ
絵幟や黒潮洗ふ漁師町
幼子を背に深淵を泳ぎきる
入相のチャイムに増ゆる蜻蛉かな
渋柿は目通り二尺実のたわわ
俳句など見たくもなき夜秋深し
防人の歌碑に柞のもみぢ降る
本棚に逆さまの本冬ぬくし
木枯の路上に若きミュージシャン
短日や替ふるパジャマの日のにほひ


  村松ヒサ子(浜松)

  蝉しぐれ
鳥帰る鎮守の森を後方にし
雨だれの音はドレミファ木の芽どき
葉桜のトンネル風の通りみち
母の日やパステル色の服を着て
約束の茶房に急ぐ白日傘
羅に紅ひくだけの化粧して
水打ちて土のにほひを立たせけり
城跡は子らの遊び蝉しぐれ
千羽鶴残り十五を折る夜長
曼珠沙華意地を通して疲れけり
秋の球根植ゑて待つ日の始まりぬ
待ちかねし手紙の届く秋日和
とつときの地酒を夫と後の月
不器用は生まれつきなり榠櫨の実
玄関になつかしき声花八つ手


総評
仁 尾 正 文 
 ①前回より四篇増えて七十一篇の応募があった。初応募の予選通過者が十名程居て将来が楽しみである。②予選通過が三十五篇あったのは、三十番目が同点で五名居たということであろう。場合によっては二十九篇でもよい。③選考に着手して今回はレベルがかなり上っていることが、すぐに分った。この分では採点はばらつくであろう、みづうみ賞も昨年の8点を下廻り場合によっては二名同点ということになるかもしれぬ等思った。結果は八名の選者の◎が重複したものはなく、みづうみ賞も6点であった。④今回もすべての作品の字がきれいで気持がよかった。自分の作品を大事にしている証しで大切なことだ。誤字、脱字や仮名遣いの誤りは入賞作品十二篇で二ヶ所あっただけだった。次回からはゼロにして欲しい。⑤題名の悪いものはなかったが、題名にした作品が不出来のものがあった。これは選者の印象を悪くする。俳句の自選は、本来難しいものであるからこれらが入選を果せなかったのはやむを得ない。季語から題名を取っているものが多いが、ある年同じ題名のものが二篇あったことがある。今回季語以外からの題名が何篇かあったがそれも結構である。⑥今回も一句ずつ作り溜めたものを構成した群作が殆んどであった。これはこれでよい。そのため一篇二十五句に二十五の季語を用いていたが、季語を沢山用いることは、しなやかでよい。⑦来年度のみづうみ賞のスタートは既に切られている。多作多棄により作句力向上をめざすのがこのコンクールの目的であるのでより多くの参加を希望する。⑧最後に入賞作品の内より秀句を抽出してその労に報いたい。

  みづうみ賞
紫陽花やしろがねの水響き合ふ 大石ひろ女
哲学の道に角出すかたつむり
鰻屋の混み合つてゐる麻のれん

  秀作賞
夕顔のひらくちからを目のあたり 小林布佐子
笛をふくための涼しき正座かな

杉板を井桁に乾して春深し 牧沢純江
児の頭ほどの蒟蒻玉を干す

外に出でよ神有月の望の夜   渡部美知子
神発ちて賑はふ町に戻りけり

舟宿の一の膳なる桜鯛 野澤房子
梅を干す筵一枚敷き足して

削りたる鉛筆にほふ春の宵 飯塚比呂子
寧日の土やはらかに耕せり

雛納む蔵の階段軋ませて 三上美知子
結願の笈摺畳む竹の春

  佳作賞
夏火鉢雲の色せし灰均らす       奥野津矢子
文殻をひとつに括り夜の秋       鈴木百合子
神等去出の夜の築地松がうと鳴る 西村松子
春宵や万年筆はモンブラン       大城信昭
母の日やパステル色の服を着て   村松ヒサ子

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