最終更新日(updated) 2010.02.04

平成17年度平成17年度 白魚火賞、新鋭賞   
           
      -平成21年2月号より転載
 白魚火賞は、前年度一年間(平成20年暦年)の白魚火誌の白魚火集(同人、誌友が投句可)において優秀な成績を収めた作者に、同人賞は白光集(同人のみ投句可)の中で同じく優秀な成績を収めた作者に授与される。また、新鋭賞は会員歴が浅い55歳以下の新進気鋭作家のうち成績優秀者に授与されます。
選考は"白魚火"幹部数名によってなされる。   

 発表

平成21年度「白魚火賞」・「同人賞」・「新鋭賞」発表

  平成20年度の成績等を総合して次の方々に決定します。
  今後一層の活躍を祈ります
              平成21年1月  主宰  仁尾正文

白魚火賞
 大村泰子
 谷山瑞枝


同人賞
 源 伸枝 

新鋭賞
 池谷貴彦
 檜林弘一


(あいうえお順)
名前をクリックするとその作品へジャンプします。

 白魚火賞作品

 大村泰子      

     彗 星

待春や人は斜めに道渡る
剪定の時々鳴らす空鋏
海光の眩しき中の袋掛
貝に砂吐かせ八十八夜かな
梅雨の戸や奥より長き返事くる
初島の海の光に草を刈る
薫風や讃岐は尖る山多く
生れし子の彗星といふ涼しき名
泡粒のひとつが放れ水中花
暴風圏内かたくなに青林檎
大甕の中まで水の澄みにけり
ふるさとの水やはらかし鬼やんま
父の忌の過ぎし十六豇豆かな
秋冷の窓に灯の入る療養所
行秋の机にこぼれ薄荷糖
打ち減りの魚板藤の実はぜにけり
菜箸の紐のからまる(とお)日夜(かんや)
亭々と茂る杉の木冬安居
ひよつこりと薬売り来る小春かな
狩人の足跡残る雑木山

  谷山瑞枝    

    寒 戻 る
         
数へたる羊の逃ぐる春の雷
白魚の潮入り川に橋二つ
看護師の名札ひらがな黄水仙
人事異動他人事なり四月馬鹿
ネクタイの結び目固き花疲れ
花散らす雨横殴りよこなぐり
茶摘女の十指見事に使ひきる
草笛の上達早き男の子
薩摩富士海へ裾引く麦の秋
紫陽花の今日の色もて暮れゆけり
暗算に少し躓き梅雨籠り
滝しぶき仁王立ちして浴びにけり
片蔭に女船頭笠を脱ぐ
捩花や漁師の朝の始まりぬ
甲冑の動き出したる暑さかな
寒菊や浜の小路の蒲鉾屋
搗き立ての小餠に張りのありにけり
セーターの黒に真珠の首飾り
張り詰めて先の鋭き大氷柱
単調な秒針の音寒戻る   

 -白魚火賞受賞の言葉、祝いの言葉-

<受賞のことば>  大村泰子       

 白魚火賞ありがとうございました。思いがけない受賞に、身の引き締る思いで一杯でございます。
 それまで俳句とは無縁の生活をしていた私は、人に勧められるままに、軽い気持で仁尾先生が直接指導しておられる社会保険センター浜松の月二回の俳句講座を受講したのですが、あれから十八年、いつの間にか俳句は、私の生活の中で、切っても切れないものになってしまいました。
 これもひとえに仁尾先生の温かいご指導と諸先生方、句友の皆様の励ましに支えられてのこととお礼を申し上げます。
 この十八年間、講座のお仲間だけでなく、白魚火の大勢の方達との出会いがあり、沢山のことを教えていただきました。
 この受賞を契機に、俳句の対象を、しっかり「見る、観る、視る」という基本を大切に、いっそう励んでまいりたいと思います。
 今後共よろしくご指導下さいますようお願い申し上げます。

  経 歴
本  名 大村 泰子
生年月日 昭和二十五年
住  所 浜松市中区
家  族 夫・長男

  俳 歴
平成三年  浜松社会保険センター「俳句講座」入会
平成五年  白魚火入会
平成九年  白魚火新鋭賞
平成十一年 白魚火同人
平成十八年 みづうみ秀作賞
平成十九年 俳人協会会員

〈大村泰子さんの横顔〉   上村 均

大村泰子さん、白魚火賞おめでとうございます。
 泰子さんは子育てが一段落した平成三年十月に、社会保険センター浜松の俳句講座に入会しました。社会保険センター浜松の俳句講座は初め夜の部のみでしたが、生徒の増加で昼の部に二つ講座が増え、円坐A・B・Cと名付けました。泰子さんは円坐Aに所属しています。この円坐Aから白魚火賞の受賞者が出たのは誠に記念すべき事であり、又全員の喜びです。
 泰子さんの入会当時の事は全然覚えていませんが、しっかりした描写と柔らかな表現に注目する様になったのは、さほど年月が経っていませんでした。
 とにかく白魚火集・白光集では常に上位を占め、栄誉ある巻頭も数回あります。月二回の講座にも毎回良い成績を収めています。最近めつきり上達したようです。
 泰子さんは、仁尾主宰の指導の許に順調に成長し平成九年度に新鋭賞、平成十七年度にみづうみ秀作賞、平成十八年度・平成十九年度にみづうみ佳作賞を受け、今回は白魚火賞受賞という快挙を成し遂げました。誠に順風満帆というところですが、これも常日頃の努力の賜物でしょう。
 泰子さんの明るい性格は、講座・吟行に存在感を発揮します。二人の男のお子さんは、すでに社会人となり、それぞれ活躍しています。泰子さんは義父の介護に相当のご苦労があったようです。嫁としての責任を果たした泰子さん。その為か細やかな感情の持ち主です。
 泰子さんは多趣味で俳句の外に合唱・絵画等々。色々な方向に手を伸ばしている様です。それぞれに玄人跣との噂があります。
 平成四年頃の泰子さんの句は、平明で調べが奇麗で新人らしからぬ表現と、しっかりした構成をしめしています。
  立冬の海おだやかに暮れにけり
  草むらに蝶追ふ帽子浮き沈み
  ふる里は山坂ばかり茄子の花
 新鋭賞受賞当時の作品は安定し、独自の感受性に輝き始めたころであり、具象の筆が生き生きとしています。
  単線の遮断機下りる仏の座
  膝抱きて見る雪渓の夜明けかな
  せりせりと落葉を踏みて山下る
 最近の表現の技法は秀抜であり、素材を上手に組み立てています。俳句の底流に流れるしみじみとした心情にひかれます。この頃は、風景もよく詠まれ頼もしい限りです。
  雁帰る十万分の一の地図
  剪定の時々鳴らす空鋏
  薫風や讃岐は尖る山多く
 ご主人を詠んだ句では、ご主人を気使う優しい気持ちが溢れています。又睦まじい家庭が想像出来ます。
  秘めごとの出来ぬ夫なり菊の花
  煤逃げの夫の行く先見通せり
 泰子さんは、各種の俳句大会や行事に参加し好成績を収めています。最近では十一月十八日の俳人協会静岡県支部俳句大会の当日句で特選を射止めました。
  旅人のうかと踏み込む鹿威し
 俳句の道は長く険しい。これにめげる事なく、受賞を契機として今後益々精進して下さい。大いなる前進を期待します。重ねて受賞をお喜び申し上げます。
白魚火賞受賞者の横顔
   
  

  〈受賞のことば〉  谷山瑞枝         

 この度は、白魚火賞ありがとうございます。ひひな会では史都女先生、ひろ女さんに続き栄光を手にすることができ光栄です。
 史都女先生との出会いから九年、雨の日の吟行のおかげで雨もまた楽しいと感じつつ、季節を五感で味わい、思いは深く、表現は平明にをモットーに正しい日本語で表現したいと思っていますが、なかなか難しいのが実情です。季語の持つ見えない力、日本語の素晴らしさ等を再認識している今日この頃です。
 アンチメタボ・アンチエイジングが数年前からの目標で、以前からの山登りやヨガなどで身体を絞り、俳句と向き合うことで楽しく脳を活性化し続けたいと思っています。
 仁尾先生はじめ諸先生方、史都女先生そしてひひな会の皆さん、今後ともご指導の程よろしくお願い申し上げお礼の言葉といたします。

  経 歴
本  名 谷山 瑞枝
生年月日 昭和三十三年
住  所 佐賀県唐津市
家  族 母

  俳 歴
平成十一年十二月 白魚火入会
平成十七月一月  白魚火同人
平成十七年度   白魚火新鋭賞

<谷山瑞枝さんの横顔>〉 大石ひろ女
  
 瑞枝さん、白魚火賞受賞おめでとうございます。
 瑞枝さんの受賞を期待していましたので、連絡を貰った時は本当に嬉しく、「良かったね」を連発しました。瑞枝さんの受賞は「佐賀ひひな会」の誇りと喜びです。
 瑞枝さんは、唐津市内の養護老人ホームの看護師として勤務されており、入所者の健康管理に常に目を届かせ、病院への付き添いや、入院等の手続を的確に一人で処理されます。多忙な日々の中で俳句をいつも身近において作句をされています。山登りも趣味の一つで、「山に行くと気持が落ち着く」と時々山の話しを聞かせて貰います。登山と俳句会が重なる時等は、朝早くファックスで不在投句を送られます。「すみません。山に行きますので投句お願いします」の添書に、瑞枝さんの並並ならぬ俳句への情熱を感じ頼もしく思っていました。又、ヨガも始められ週一回の練習も欠かさず出席される努力家です。
 瑞枝さんは、平成十七年に新鋭賞を受賞され、その後もめきめきと上達され、僅か三年で結社賞の受賞となりました。
 瑞枝さんの俳句は、とても新鮮です。豊かな感性と鋭い感覚で誰もが見過す所を細かく促えて、さらりと句に詠まれます。又、歳時記を良く勉強され、季語の使い方がとても斬新です。いつも一緒に吟行しますが、出される句の旨さに「ウーン」と唸る事もしばしばです。
 毎年七月末に、唐津市浜崎の諏訪神社の夏祭「浜崎祇園祭」が行なわれます。唐津まで車で行き、電車に乗り替え二駅で浜崎です。行く時から、瑞枝さんは祭りモードでとても若々しく華やいで祭りの中を颯爽と歩きます。その祭りを詠んだ句。十九年十月号準巻頭
 祭り見る場所取りの早始まりぬ
 長髪を束ね男に祭り来る
 山車を引く綱の先端大回り
 男振り上げし締込山車を引く
 煙草の火祭り提灯より貰ふ
祭りの情景と、山車を引く若者の逞ましさを美しく表現し、祭りの雰囲気の中へ読者を引き込むような俳句だと感服いたしました。
 今年に入り、六月号準巻頭句より
 ネクタイの結び目固き花疲れ
 人事異動他人事なり四月馬鹿
等のユーモアのある句も有ります。竹を割った様な性格の瑞枝さんの明るさと活発さを感じますと共に、仕事に打ち込む強い姿勢が伺えます。七月の松江大会では、瑞枝さんと同室で、朝はテレビ体操、夜は真面目に句帳の整理をしながら「私達俳句合宿」みたいと笑い合いましたが、瑞枝さんは大会二日共、先生方の特選を独り占めするほどの快挙を為し遂げられました。
 夏柳間口の狭き町屋かな
 片蔭に女船頭笠を脱ぐ
 捩花や漁師の朝の始まりぬ
 二の丸の鉄砲狭間毛虫這ふ
 甲冑の動き出したる暑さかな
 松江大会の折りの作品で、十月号白魚火誌にみごと巻頭に輝きました。
 「甲冑の句」に、仁尾先生は、単なる写生によって物事の真実に到達することは難かしい。自由な想像の力を借りる時はじめて真実が見えて来る。と書かれています。この受賞を機に更に自由な想像力で、若々しい重厚な俳句を目指し御精進される事をお祈り致します。


同人賞
 源 伸枝

 花八ツ手

農つぎし婿になみなみ年の酒
白粥を煮るさはさはと雪降れり
塩壷に塩ぎつしりと寒の入り
指切りの指のぬくもり日脚伸ぶ
鉛筆に深き歯形や受験の子
耕人につばさ傾け鳶舞へり
墓石にそそぐ地酒やつばめ来る
地を蹴つてつかむ鉄棒柿の花
夫といふ柱の失せし田植かな
手で測る水の深さや青嵐
砂浴びの雀に散れり花南天
跳箱の出来ぬ思ひ出ビール飲む
短夜や潮の匂ひの髪を梳く
眠る子に少し遠ざけ蚊遺香
島々の静かに暮るる広島忌
夫に似し婿の姿や早稲を刈る
秋天やすべるがごとく船の出て
流星や漢字あまたを忘れゐて
誰もゐぬ時の口笛雁渡し
竹箒大きく使ひ花八ツ手

 -同人賞受賞の言葉、祝いの言葉-
<受賞のことば> 源 伸枝          

 思いがけない同人賞をとのお電話を頂き、しばらくは呆然として夢ではないかと何度も思いました。未熟な私に栄ある賞を下さいまして誠にありがとうございます。これも仁尾主宰を初め諸先生方の御指導のお蔭と心よりお礼申し上げます。又、広島白魚火会の皆様の暖かい御指導のお蔭でございます。退職致しまして、これからは晴耕雨読だと読みたい本を積み上げておりました。春枝さんに俳句を進められても、私には俳句は出来ないと頑に断っておりましたがいつしか白魚火に入会させて頂いておりました。出来ない俳句に苦しむ日々が続き、もうやめようと幾度思いましたことか、その度に優しく句友に励まされ、助けて下さいました事に深く感謝致します。此の賞を頂きました事を力にもっともっと俳句に心を寄せて頑張って参りたいと存じます。これからも御指導御鞭撻下さいますようお願い申し上げます。
 ありがとうございました。

  経 歴
本  名 源  伸枝
生年月日 昭和十年
住  所 東広島市
四四三九
家  族 娘夫婦 孫一人

  俳 歴
平成九年二月 白魚火入会
平成十三年  白魚火同人
平成十五年  みづうみ賞受賞
平成十八年  俳人協会会員

  < 同人賞受賞者の横顔>   奥田 積
     
 源伸枝さん同人賞おめでとう
源伸枝さんの同人賞受賞の知らせで水曜句会の会場はどっと沸いた。そうして静かに挨拶される伸枝さんに暖かい拍手がなり響いた。
 広島では、水曜句会、土曜句会とも会員が急激に増加して白魚火句会は嬉しい悲鳴状態にあるが、その句会進行や会計業務を一手に引き受けて世話をしてくださっているのが源さんなのである。
 最近当句会に入会された会員は案外知らない人が多いのではないかと思うが、源さんは平成十五年の第十回みずうみ賞の受賞者で、押しも押されもしない白魚火の実力俳人の一人である。だから今回の受賞も至極当然のことのようにも受け止められるが、絶えず佳句を作り続けるには、相当の努力と根気が必要であることは言を待たない。この一年の間に、実に白光集巻頭・準巻頭各一回の外五句欄搭載六回という成績を収められているのである。 
 源さんは、先年最愛のご主人を亡くされるという不幸にも遭遇されたが、幸いにもお嬢さんご夫妻と同居されていてお孫さんにも恵まれ、欠詠するまでに至ることなく過ごされたのは不幸中の幸いであった。吟行の際にはよく送り迎えされていたご主人である。今度の栄誉をきっと天上界で喜んでおいでのことであろう。
 私と源さんとは俳句を共に始めた時期も近く、一時期は五つの句会二つの通信句会を共にしてきた仲である。ところがである、源さんは間違いなくどの句会でもコンスタントに上位高得点者に列するのである。そんふうであるのだが、いつも物腰やわらかく控え目で、笑みを絶やさないやさしい方であって、句会場に落ち着きとともに、えも言えぬ華やぎを与えてくれる人なのである。その矛盾するようで矛盾しない空気を生じせしめるところこそが源さんの源さんらしいところであり、その人柄の慕われるゆえんだと私は理解している。
 最後に受賞該当作品群とはずれるものもあるが、私の好みの源さんの句をいくらか掲載して、今回の受賞への大いなる祝意としたい。
  先ずは家族への深い愛情を詠まれた作品から
   不揃ひに減りしクレヨン夏休み
   婿殿に田植疲れのありにけり
   書き出しにつまづく母の日の手紙
   腹の子も数に加へて西瓜切る
   抱けば児のすぐに眠れる花すみれ
  ご夫君を詠まれた句から
   春灯を寄せて含ます三分粥
   百合の香に目覚めて雨の七七忌
   夫の癖砥石に遺り秋深し
   こぼれずにふくらむ泪今日の月
  日常の生活や俳句生活を詠まれたものなどから
   鍬使ふ音のかすかに日脚伸ぶ
   藤の花浮かべる水を引きにけり
   遠くより会釈や稲架を組みをれば
   夫のもの羽織りていづる春の月
   剥落の絵馬のした借る花の句座
   星涼し神のささやき降るごとし      

   新鋭賞 
  池谷貴彦

  水澄めり

隣家より先に始むる鬼は外
一樹づつ観し梅園を離れ見る
思ひきりふらここ漕ぎて卒業す
風光る似顔絵上手の巡査来る
ここからは道が途切れて蛍の火
転校の児に緋目高を持たしやる
目鼻無き武具に供へし菖蒲酒
わり算ができんできんと蝉騒ぐ
渋滞を抜けて逃げ水現るる
ゴーグルに涙を溜めて夏終はる
一日に三度のご飯終戦日
急ぐ水急がぬ水も澄めりけり
帆の遠さ岬の遠さ秋の海
只管に走る勤労感謝の日
外套のポケットに去年残りをり

   檜林弘一

   南風吹く

タンカーを留め水平線おぼろ
散り際に適ふ風あり夕桜
学校のチャイムは海へ初燕
祭笛男の笛に替はりけり
行きずりの白雲ひとつ朴の花
二十畳三間貫く青嵐
源平の名負ひて競ふ花菖蒲
大橋の跨ぐ海峡男梅雨
囮鮎早瀬に出るを許されず
一湾の風分かち合ふヨットの帆
人生の今の楽しさソーダ水
島々の余白は航路南風吹く
郵便夫青田の風に乗つて来し
好きな風好きでない風秋櫻
木犀の香に番犬の静かな日

-新鋭賞受賞の言葉、祝いの言葉- 
   <受賞のことば> 池谷貴彦          

 この度の受賞に大変恐縮しております。今まで俳句で賞など頂いたこともないし、私には縁のないものだと思っていました。また、投句しても未だに詩的な表現に拘ったり、文法を間違えたりしている未熟者だからです。
 私が俳句と出合ったのは、地元の俳句教室でした。そのときの講師が主宰の仁尾先生でした。ですから、私は最初から主宰直々の御指導を十余年に渡って受けている幸せ者です。しかし、その指導の有り難さを忘れたり、自分の仕事の忙しさに託けたりしてマイペースで続けてきました。そして、先生からは、「休詠は退歩になる」「積み重ねが大切」などと何度か励まして頂いて今日に至っている次第です。
 また、私は以前、浜松を離れ、二年間鳴門に暮らしていました。そのときは、徳島白魚火会の石橋茣蓙留先生や故楠瓢水先生のもとで俳句を継続し、楽しむことができました。徳島のみなさんにもとてもよくしていただき、阿波の文化や風物を句会を通して味わうことができました。今でも感謝の気持ちで一杯です。
 この受賞を機会に諸先輩に恵まれ、育まれながら俳句ができることに改めて感謝し、今後も自分の感性を日常生活中で磨いていきたいと思います。
 仁尾先生、諸先生方、句会の皆様に心より感謝とお礼を申し上げます。そして、今後とも御指導くださいますようにお願い致します。
 経 歴
本  名 池谷 貴彦(いけやたかひこ)
生年月日 昭和三十六年
住  所 静岡県浜松市西区
俳  歴 平成八年十二月 白魚火会入会
     平成二十年一月 白魚火会同人
家  族 妻 長男 長女  父 母

-新鋭賞受賞者の素顔-
   < 池谷貴彦さんの横顔 >    福田 勇
 
 池谷貴彦さん、新鋭賞受賞おめでとうございます。初生句会のホープとして会員の皆さんと共に心よりお喜び申し上げます。
 池谷さんは、忙しい現職教師の合間を縫い、熱心に俳句作りに取り組んでおります。また、明るく社会性に富んだ性格で、会員の皆さんとも打ち解けて、楽しく俳人の道を進んでおります。
 池谷さんは、生粋の浜松っ子で、小・中・高校を卒業後、東京学芸大学に進み、卒業と同時に故郷の浜松に戻り、教師として市内の小学校に赴任しました。その後、選ばれて内地留学生として、鳴門教育大学大学院で二年間、カウンセリングを学んで来ました。現在は、市内にある静岡県立三方原学園の研修主任として活躍しており、将来を嘱望されている、新進気鋭の教師であります。
 池谷さんの俳句の出会いは、地元初生の俳句教室でした。仁尾先生の直接指導のもと俳句作りを始め、教室の句報作りにも携わってきました。その後、内地留学のため浜松を離れてからも、徳島の句会に入り、石橋茣蓙留先生や、今は亡き楠瓢水先生に教えを請い、益々腕を磨き、二年後の帰郷と共に、初生句会に復帰し、忙しい教師生活の傍ら俳句作りに精進して、今回の新鋭賞受賞に至った次第です。
 池谷さんは温厚誠実で誰にでも好かれる性格の持ち主であり、生徒からも人気のある、人間性豊かな教師で、俳句作りにもそれが表れております。入会間もない俳句を始め、今まで俳句に如実に現れております。私なりに過去の初生合同句集から拾って見ました。
  振り返り振り返り行く卒業子(一号)
  阿波踊り覚えて阿波の人となる(二号)
  逆上がり出来ぬ子一人枇杷の花(三号)
  吾亦紅祖母に米寿の色紙描く(四号)
  メガホンに返す声なき遠泳子(五号)
  教へ子と病床並べ去年今年(五号)
  志一人一人に松の芯(六号)
  天高しきりんの前の肩車(六号)
  母の日の男料理や米を研ぐ(七号)
  子の夢は母の夢かも鳥渡る(七号)
  卒業歌奏でしピアノ蓋閉づる(八号)
  晩秋や一人残りて逆上がり(八号)
  割り算ができんできんと蝉騒ぐ(九号)
  ゴーグルに涙を溜めて夏終る(九号)
等々があり、同人に一年目にして、白岩先生選の白光集の巻頭に輝き、また、十一月の句会において
  只管に走る勤労感謝の日
と今の人生を表す秀句を作る等、俳人としての片鱗が見られます。また、随所に児童や家庭を思う気持ちも表れ、暖かい人間性が認められています。
 池谷さんの、教師として、また俳人としての、今後の活躍を期待致します。

〈受賞のことば〉  檜林弘一        

 受賞のことば
 このたびは、私のごとき初学者に賞をいただき、恐縮の極みでございます。
白魚火入会後の三年間は仕事の関係上、首都圏に単身赴任の境遇でしたが、たちまちにして白魚火俳句の客観写生の魅力にのめりこみ、ともすれば無味乾燥とも思える都会のサラリーマン生活に、季節の潤いと、めりはりのある日々を与えていただきました。昨今は、十七音の深さを知るにつれ、エンストを起こさないよう、皆様に追いついていくのが精一杯という日々が続いております。今後も、一歩一歩の積み重ねを大切に、「よい俳句とは、自分の俳句とは」を自問自答しつつ精進していきたいと思います。
 いつもご指導をいただいております仁尾主宰、鈴木同人会長をはじめ、白魚火誌上で多くの糧をいただいております緒先輩の皆様、今後ともよろしくお願い致します。また、赴任先の月例句会でお世話になった句友のみなさん、および、いつもバックアップしてくれている郷里の母に感謝します。
ありがとうございました。
  経 歴
本  名 檜林 弘一(くればやし こういち)
生  年 昭和二十七年
住  所 三重県名張市
俳  歴 平成十七年 白魚火入会
     平成二十年 白魚火同人

 -新鋭賞受賞者の素顔-
 <檜林弘一さんの横顔>   田部井いつ子

 弘一さんは静岡県牧之原市の高校時代の同級生です。ご卒業後、名古屋大学にて電気工学を学ばれ、現在はIT関連のエンジニアとして企業に勤務されておられます。
 弘一さんの叔父様は白魚火同人会長の鈴木三都夫様、母上は鳥雲同人の桧林ひろ子様、という傍から見れば恵まれた俳句環境にはありましたが、一度も句作を促されたことはなかったそうです。魚釣り、ギター演奏、スキーなど多彩な趣味を持たれていますが、それまで俳句に縁のなかった弘一さんが俳句の道に入るきっかけとなったのは、お勤め先の社長様との釣行がきっかけであったとお聞きしております。お二人で釣りに出かけられただけなら、映画「釣りバカ日誌」のごとし、で話は終わるのですが、当日釣果の方は、かんばしくなかったようです。釣糸を垂れながら、社長様からたまたま俳句の手ほどきを受けられたのがきっかけだったとか。その翌年、平成十七年に白魚火へ入会、鈴木三都夫先生に師事され、俳句の腕を磨かれました。

 平成十八年、初参加の浜松全国大会にて、
  丸洗ひされし羅漢や青葉梅雨山根仙花先生 特選
 翌年、仙台全国大会では、
  島々の余白は航路南風吹く織田美智子先生 特選
などの選を受けられました。
 弘一さんの横顔に適う印象的な句を誌上から選んでみます。
 ほどよくウイットの効いた句。
  囁くといふことのなし猫の恋
  うそ寒し蟹仰向けに計らるる
 一瞬の景をうまく切り取られています。
  肩車すれば揃ひの祭文字
  勝ち凧のうなぎ昇りを始めをり
 相変わらずの釣り好きとお見受けします。
  釣り好きに釣具セールの年賀状
  一竿に鰯連なるさびき釣り
 大の日本酒党でもあります。
  夜桜に試されてゐる吾が酒量
  マスクしてわが野放図の酒臭し
 大きな景も詠まれます。
  畔といふ畔を素通り青田波
  帰る鳥今列島を見渡して
 望郷の心は失せません。
  故郷あり父母の在り年新た
  酔ふほどにふるさと訛り大晦日
 これらの句に加え、最近の白魚火誌上の句も一段と多彩となってきているように思います。今後も多方面で、益々のご活躍をお祈りいたします。
 新鋭賞受賞おめでとうございます。

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