最終更新日(update) 2011.06.24 

第18回(平成23年)平成17年度 白魚火賞、新鋭賞   
             平成23年6月号より転載

 みづうみ賞は、毎年実施の“白魚火"会員による1篇が25句の俳句コンテストです。先ず予選選者によって応募数の半数ほどに厳選され、更に主宰以下の本選選者によって審査・評価されて、その合計得点で賞が決定します。

発表
平成二十三年度 第十八回「みづうみ賞」発表。
 第十八回応募作品について予選・本選の結果、それぞれ入賞者を決定いたしました。御応募の方々に対し厚く御礼申し上げます。


          平成二十三年五月     主宰  仁尾正文

 (名前をクリックするとその作品へジャンプします。)   
  
みづうみ賞 1篇
日向ぼこ 小村絹子  (牧之原)
秀作賞   6篇
日々好日   大石益江
(牧之原)
荒木千都江
(出雲)
お茶の花 小川惠子 (栃木)
桜の夜 村松ヒサ子  (浜松)
あをによし 檜林弘一 (名張)
こぼれ萩   奥野津矢子 (札幌)
 
   みづうみ賞  1篇
   小村絹子 (牧之原)
 
   日向ぼこ
初日の出借景にして雁の棹
春渚鴎とパラグライダーと
芹の水日の斑眩しく流れけり
花通草一人の巾の女坂
掃き寄せて掃き散らしては花の風
かたかごの一輪づつの物思ひ
声掛けて摘ませて貰ふ新茶の芽
干草ロール点景にして牧の昼
空と海曖昧にして南風吹く
水馬一寸跳びの影を連れ
風紋に鳥の足跡南風吹く
サングラスかけてしがらみ捨てにけり
扁額に「脚下照顧」や道をしへ
夕星の出しなは知らず門火焚く
国分寺跡繊月の仄白き
一枝は手水に触れて萩の花
磨り減りし上り框やそぞろ寒
昼点す城の内井戸そぞろ寒
鵙の贄風に晒せるうすみどり
高床の回廊巡る秋の蝶
コーラスの新曲決まる星月夜
哀れ虫鳴くを全うして死せり
沼涸れて底を見せたる寒四郎
臘梅の臘を流せる雨雫
小指より爪塗つてゐる日向ぼこ
  受賞のことば   小村絹子     
 
 この度はみづうみ賞を頂きありがとうございました。俳句上達の足掛かりとしてみづうみ賞に取り組み出した所でしたので、驚きと戸惑いの日々を過ごしております。
 入会間もない吟行でのこと、城址の裏山で通草を見つけると、鈴木先生が蔓を手繰り寄せては皆に一つずつ通草を取って下さいました。その時の感激が忘れられず、以来ピクニック気分で、一人で吟行に行くことが習慣になっております。
 春夏秋冬と繰り返される自然の営みに触れ、人としての感性を養い、やがては作句への糧となることを願い、これからも故郷の自然に親しんで行きたいと思います。
 最後になりましたが、仁尾主宰を始め、俳句の面白さを教えて下さいました鈴木先生、陰に日向にと励まして下さいました諸先輩の皆様、そしてよき仲間、よきライバルである句友の皆様に心より感謝とお礼を申しあげます。ありがとうございました。

住所 静岡県牧之原市
生年 昭和二十三年

 秀 作 賞   六篇
   大石益江 (牧之原)

  日々好日
蕗味噌や母の小言のさりげなく
草よりも草の色して青蛙
草刈や時計代りのバスの行く
人声は夢でなかりし昼寝覚む
風通す母の形見の縮織
むらさきは母の好みや花菖蒲
平凡の続く幸はせ冷奴
何もかも暑さのせいにしてゐたり
水底の影のふくらむ水馬
片陰を抜け片陰を探しけり
馬になりさうな茄子を選びけり
化粧せぬ母の一生鳳仙花
ひとからげして秋草の軽きかな
稲穂垂れ垂れて畦道見失ふ
引く幕も楽屋もなくて村芝居
夕暮れの芒明りとなりにけり
父米寿夫は還暦菊の酒
落葉掻き追ひ越してゆく落葉かな
山茶花の枝揺さぶつて掃きにけり
湖よりの西日の届く蜜柑山


   荒木千都江(出雲)
    
  空
浮雲や春意を兆す雑木山
青竹の触れ合ふ音や冴返る
無造作に活け整ふる壺の梅
やはらかな風の意に添ふ黄水仙
日を受けて土手の土筆の総出かな
交番へ蝶ゆつくりと舞ひ込めり天蚕の郷
揚雲雀無心にさせる空がある
思ひ切り伸びて吹かるる今年竹
釣舟を散らしみづうみ夏めける
より白き雫宿して朴の花
風鈴は風の機嫌を伝へけり
筒鳥の声雲に聞き風に聞き
むらさきの一輪といふ涼しさよ
沙羅の花夕べ散れるを見て佇てり
雲流れ秋が空から訪れし
露草の露のむらさき開きけり
稲刈りしあとの匂ひの広さかな
ちぎれ雲影置きし野の秋のいろ
鰯雲野に一水の光りかな
風吹けば風と話して散る銀杏
   

   小川惠子 (栃木)
    
  お茶の花
梅香る御手洗川を渡りけり
浅春のポシェット一つだけの旅
蕗の薹土手に傾げる道祖神
芽山椒笊いつぱいの軽さかな
やはらかくタオルの乾く花曇
草茂る廃車の上に廃車積み
糠床の疲れみえきし原爆忌
葉生姜を洗ひ上げたる水匂ふ
風の梳く干瓢簾うすみどり
肩ぽんと押され加はる踊の輪
広場よりジャズの聞ゆる終戦日
茅葺きの廂の奥の秋風鈴
菜種蒔く薄紙ほどの土をかけ
立読みの肩より釣瓶落しかな
隠沼の水は動かず菱紅葉
心字池落葉の蓋の鬩ぎ合ふ
四Bの鉛筆が好きお茶の花
焼藷屋来てをり財布探しをり
俎を削り直すも年用意
風折れの水仙土に香をこぼす


   村松ヒサ子 (浜松)
    
  桜 の 夜
天井に水かげろふや雛の間
菩提寺に咲く白椿紅椿
辛夷より視線を空へ戻したる
つなぐ手の熱くなりたる桜の夜
紙ふうせん風が攫つてゆきにけり
薔薇園のあちらこちらに木のベンチ
十薬の咲きつぎ誰も住まぬ家
和菓子屋の二階に茶房麻のれん
秋草の名を教へつつ子と歩く
出日和に仕立て下ろしの秋袷
これよりは鳥獣保護区穴まどひ
大寺に庭師が五人松手入
行きずりに菊花展あり寄りにけり
空稲架の乾き切つたる竹の棒
冬めくや覗いて見たる壺の口
冬晴やふつと現はるるてふてふ黄
しんがりが好きたんぽぽの帰り花
二の鳥居くぐる頃より時雨けり
イヤリング外してよりの寒さかな
冬座敷他人のやうに夫のをり


  檜林弘一 (名張)

  あをによし
かつかつと女下駄来る初詣
風花を降らせる雲の見当たらず
盆梅の幹を隠せる花の数
街角に和菓子のちらし風生忌
水取の火の粉一気に盛りけり
あをによし大和三山芽吹き初む
朝市に蜆の汁を賄へる
初花を震はす雨となりにけり
一山を花見の客に貸し出せる
花盛る枝垂るる丈を使ひ切り
山道の出合頭や二輪草
燕の巣はやも手狭となりしかな
酒蔵の女将は米寿村のどか
漣を均し終へたる植田かな
鮎掛や穂先の溜めを使ひ切り
ふるさとの家並の古りし盆の月
模擬店を閉めて踊の輪に入りぬ
毬栗をふたつ転がし床飾
足元に闇の近づく焚火かな
ほとばしる姿のままに滝凍つる


  奥野津矢子  (札幌)

  こぼれ萩
コタンにはコタンの言葉花芒
刳舟の舳先の幣や穴まどひ
薄れゆく血を継ぐコタンこぼれ萩
小鳥来る人待ち顔の森の椅子
捨て船の疵の深まる実はまなす
木の実踏む脆くなりたる太鼓橋
木の股に渡す干し竿秋澄めり
汽笛一声函館本線草は穂に
島二つ間近に見据ゑホッケ船
ムックリを習ふ双子や秋気満つ
天井の低き工房つるもどき
コスモスの向き八方の自由さよ
刺草の干され続けてそぞろ寒
終点を通り越す里霜の花
雪螢季節違へず湧きにけり
燻されし幣や厚司や笹小屋の冬
板塔婆の重なり合うて時雨けり
薪割の屁つ放り腰を撮られけり
冬天や平屋造りの集会場
榾木照る木戸を開くればオホーツク

無断転載を禁じます