最終更新日(Update)'17.11.01

白魚火 平成29年11月号 抜粋

 
(通巻第747号)
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 11月号目次
    (アンダーライン文字列をクリックするとその項目にジャンプします。)
季節の一句    計田 美保 
「校倉造」 (作品) 白岩 敏秀
曙集鳥雲集(一部掲載)坂本タカ女 ほか
白光集(村上尚子選)(巻頭句のみ掲載)
       
保木本さなえ、吉田 智子  ほか    
白光秀句  村上 尚子
句会報 白魚火名古屋句会   安藤  翔
白魚火集(白岩敏秀選)(巻頭句のみ掲載)
     檜林 弘一、森脇 和惠  ほか
白魚火秀句 白岩 敏秀


季節の一句

(東広島) 計田 美保   


年令はただの数字か冬銀河  谷山 瑞枝
(平成二十九年一月号 鳥雲集)

 「おいくつですか」と問われると、「歳」を省いて数字だけを答えてしまう人が多いのではないだろうか。掲句はそのことを改めて意識させてくれるが、「冬銀河」と取り合わせることによって、ただ人間の雑感を描いているのではないことがわかる。宇宙の何億という気の遠くなるような時間の流れ、また「光年」に表される空間の広がりに思いを馳せ、人類誕生からの時間でさえ、一瞬のことのように思えてくる。また「冬銀河」なればこそ、人生経験あっての透徹したものの見方であることがわかる。

 石蕗は黄に薬師如来の薬壺  脇山 石菖
(平成二十九年一月号 白光集)

 薬師如来の左手には薬壺が握られている。右手は印を結んで、ひたすら衆生の病気を治して苦しみから救い、災難を鎮めようとしている仏である。深緑の光沢のある葉からすうっと伸びた石蕗の花。昔は薬草として用いられたそうだが、単に「薬」つながりというだけでなく、石蕗の花の奥深い黄色が、衆生の平癒を願う仏の祈りの色として俄然立ち上がってくるようである。初冬の日が一条の光としてスポットライトのごとく石蕗の花を照らしている。

 夜神楽の笛に宮司の加はりぬ  石川 寿樹
(平成二十九年一月号 白魚火集)

 神楽は、神座にお迎えした神に、喜んでいただくための舞いであり、その空間は神人一体の宴の場である。里を守ってくださる神に畏敬の念を持ちながら、里の人は普段から熱心に神楽の練習をしてきたに違いない。本番の夜神楽に、神事を終えた宮司が加わり、神楽はより高みへ昇り、神は手をたたいて喜んでいらっしゃるのではないだろうか。産土神をまつりながら、日常のささやかな暮らしを大事にしながら生きている里人と、里人の安寧を祈っている宮司。目には見えぬが大事にしなければならぬ世界があることを、改めて気づかせてくれる句である。



曙 集
〔無鑑査同人 作品〕   

 夏 雲 雀  坂本タカ女
沈黙のつの動きだす蝸牛
刈り伏せてゆく牧草や夏雲雀
向日葵の首に疲れの見えきたる
単線の踏切り渡る道をしへ
虹消えし国道つるべ落しかな
テーブルに荷を解くルビーロマンかな
降りてくるでもなきパラグライダーあきつとぶ
盆過ぎの供花あふれをりアイヌ墓地

  盆   鈴木三都夫
歌枕訪ね宇津谷地蔵盆
地蔵会の人出に適ふ小商ひ
樒売る口上幼地蔵盆
地蔵盆賽の河原に供花溢れ
地蔵盆夜は念仏の灯を点し
灯籠へ手汲を送る別れかな
流灯の消えゆく闇の深さかな
盆終りみんな帰つてしまひけり

 帰  燕  山根 仙花
干し草の匂ひの土手に腰下ろす
さよならと帰燕の空へ手を振りぬ
燕帰る大空今日も真青なり
ふるさとの闇の深さや虫時雨
逆様に桶干してあり秋暑し
何事もなくて厄日を雲行けり
小鳥来て窓辺親しくなりにけり
読みさしの一書机上に厄日過ぐ

 風土記野  安食 彰彦
百日紅咲かせ弥生の出雲びと
銅剣はいつも鈍色秋暑し
荒神谷色なき風の吹きぬけり
矢狭間より見えたる秋の湖平ら
円墳を残し刈田となりにけり
日本海御碕より見る秋夕焼
秋夕焼向かうの島は隠岐の島
風土記野を跨ぐ大きな秋の虹

 鳥 渡 る  村上 尚子
呼び水に応ふるポンプ原爆忌
草市に買ふ嵩張りてかろきもの
村の子の全部で五人地蔵盆
コスモスや児を乗せてくる猫車
ワイシャツの案山子疲れてきたりけり
秋燕や沖にひとかたまりの雲
妹の墓の遠さよ鳥渡る
星月夜父に聞きたきことばかり

 男波女波  小浜史都女
うちはさぼてん波打際に花終る
波乗りの浮きては沈む晩夏光
ぼたんづる仙人草も岬の花
波乗りに波高き日や鳥渡る
十ばかり潮焼けしたる秋思仏
自然薯の花や岬に土器の神
ここからは狩猟禁止やつづれさせ
駈けてくる九月の男波女波かな

 蓮 の 実  鶴見一石子
ラムネ玉すとんと昭和の音をたて
朝顔やけふのいのちを賜はれり
息を呑む関八州の稲光
冷やかに姿写せし姿川
秋気満つ金波銀波の九十九里
蓮の実のとべる天界母のこゑ
死の話尽くることなき流れ星
閻魔堂前もうしろも茨の実

 終 戦 日  渡邉 春枝
ひと雨のあとの青空秋立てり
起き抜けの水の一杯終戦日
秋暑し立ち居のたびに声の出て
一滴の目薬の効く秋暑かな
文月や使はぬままの広辞苑
ふる里に彼の死を知る盆の月
近径のつもりが迷ひ真葛原
秋風にお洒落ごころをくすぐられ

 いわし雲  渥美 絹代
掘り返す遺跡や蝉の穴あまた
赤松の上り框や秋の風
銀漢や紙縒上手によりし父
敗戦日大河濁りて海に入る
山際に雨の残れる送り盆
盆過ぎの草ぬつてゆく流れかな
かなかなや山羊の仔すこしよごれゐて
平飼の鶏のちらばるいわし雲

 花火大会  今井 星女
函館港囲む歓声揚花火
摩周丸かたへに花火揚がりけり
かんぱつを入れず花火の揚がりけり
花火見る見知らぬ人に声かけて
花火見る六萬人の瞳かな
花と散る花火に声を上げにけり
大会は仕掛花火をもて終る
一湾に一萬発の花火屑

 大人の軍手  金田野歩女
緑蔭の茶屋の床几は自由席
「原爆の図」しかと見てゐる半ズボン
貝風鈴鸚鵡返しの反抗期
図書館の膨らんでゐる夏休み
日本画展出て睡蓮へ師の句碑へ
読み聞かせみんな集中涼新た
酒蔵の銘の緑青こぼれ萩
いも掘りの大人の軍手持たされて

 燈火親し  寺澤 朝子
たぶたぶと横たふ運河野分だつ
採皿の窓をかすめて鬼やんま
消燈ののちの夜長のはじまりぬ
燈火親し読み書きわづかにてあれど
目つむりて秋の扇の風もらふ
九階の雑草園の秋の空
朝ごとの秋果に癒さるる身とおもふ
もどり来しへや開け放つ盆の月



鳥雲集
一部のみ。 順次掲載  

 水 中 花 (牧之原)桧林 ひろ子
祖父の字の梅酒の瓶に残りゐし
水中花鮮やかなれど名は持たず
向日葵に覗かれてゐる厨窓
おしろいの種のはじけて通り雨
空つぽの桔梗の蕾ふくらみ来
平凡に生きて勤労感謝の日

 秋 め く (出 雲)武永 江邨
寄せ書きの団扇を貰ひ米寿祝ぐ
夏袴巫女は白緒の草履はく
冷房のベッドの上の俳句メモ
耳底のいつも鳴りゐて晩夏来る
起き抜けの屈伸運動秋めけり
秋めくと思ふ厨に坐する度

 蓮 の 実 (出 雲)三島 玉絵
上棟の槌音ひびく大暑かな
棟梁の汗のしたたる釘袋
蓮の丈蓮の実の丈雲飛べり
花了へし蓮の葉を風翻す
色無き風と入りたる博物館
吊橋を潜りて秋の水となる

 秋 の 蝉 (浜 松)織田 美智子
扇風機に赤子まるごと吹かれをり
ログハウス貝風鈴の鳴つてをり
生ぬるき蛇口の水や夾竹桃
空壜に溜まる硬貨や百日紅
赤とんぼの群れの真中にゐたりけり
分教場跡の一樹や秋の蝉

 月 見 草 (浜 松)上村  均
夏草の長けてかくるる海の景
遠景に島置く磯の月見草
列正し夕べの湖を鵜の飛べり
客として団扇の風を頂きぬ
茄子もぐや野末を進むバスの列
夜の秋熟語探して辞書捲り

 初秋の光 (宇都宮)加茂 都紀女
大谷寺の赤門敲く蝉の声
石佛に賽銭溢れ夏終る
天窓に初秋の光や石奈落
一都碑に実の色付きし山帽子
行啓碑に並ぶ主の句碑爽やかに
大根の芽の出揃ひし石工畑

 花 木 槿 (群 馬)関口 都亦絵
一都師の句碑盤石や花木槿
吾亦紅忌青磁の壷に萩すすき
野ざらしの詩碑に色なき風の音
草紅葉一重瞼の土偶かな
神宿る一木一草露時雨
露しぐれ肩よせ合へる道の神

 蝉しぐれ (松 江)福村 ミサ子
一語得て一語忘るる酷暑かな
蝉しぐれ母の齢にまだ遠し
立秋と聞くだに心やすらぎて
月涼し湖は水辺のもの映し
流灯会ネオンのゆるる湖に向き
虫鳴くや木橋の袂あたりより

 新 天 地 (群 馬)金井 秀穂
新天地求めて毛虫道を這ふ
喜雨至り百姓昼を深睡り
喘ぎ来て緑蔭に息整ふる
雨つづき肋の透くる濡れ案山子
虫しぐれそを聴き分くる耳持たず
束の間の日差しに気負ふ残り蝉

 流  灯 (牧之原)坂下 昇子
花火待つ夜風に汐の匂ひして
欄干に残る温もり花火待つ
青空にさざ波生まれ雲は秋
手を繋ぐやうに流灯連なれる
入り潮に戸惑うてゐる灯籠かな
留まりし流灯のまた流れ出す

 秋  蝉 (八幡浜)二宮 てつ郎
秋立てり岬の山を越ゆる雲
真面目に来る服薬時間秋暑し
秋蝉の忘れし声が鳴いてゐる
迎火の果てたる臑にひそと風
光りて遠し小湾も秋燕も
午後に移るひとりの時間椿の実

 地 蔵 盆 (浜 松)野沢 建代
大瓶の酢を買ふ事も盆用意
ふる里の山あをあをと地蔵盆
地蔵会の鉦の音届く一戸かな
地蔵渕と今もよばれて秋の鮎
葱苗を植ゑて八月終りけり
うら返るテープきらきら鳥威し



白光集
〔同人作品〕 巻頭句
村上尚子選

 保木本さなえ(鳥 取)

盆の客送り夜風を戻りけり
流灯のやがて光のすぢとなる
岩に散る波の白さや島の秋
ちちろ鳴く土間の隅より風抜けて
庭のものどれも影持つ今日の月


 吉田 智子(函 館)

えぞにうの丈なす中央分離帯
水弾く紫紺の茄子を漬けにけり
半月にとどく打揚花火かな
地鳴りしてあがる仕舞の大花火
月の位置動きて花火終りけり



白光秀句
村上尚子


流灯のやがて光のすぢとなる  保木本さなえ(鳥 取)

 盆の十五日、あるいは十六日の夜、川や海へ灯籠を流す行事の景の一端である。明るかった水辺も次第に暗くなってきた。それぞれの家族が持つ灯籠にも灯が点り、一つ二つと手元から遠ざかって行く。故人への思いは募るばかりである。見えていた灯籠の形も「やがて光のすぢ」だけとなった。
 この句には余計なものは何も見えない。そして聞こえない。少ない言葉により、一点を見つめる作者の姿だけがそこにある。
 盆の客送り夜風を戻りけり
 盆の行事もすべて終り、客を外まで見送りに出た。大役を済ませた安堵、そして淋しさ。どちらの作品も感情を言葉にしていないが、読者の心に深く触れる作品である。

月の位置動きて花火終りけり  吉田 智子(函 館)

 江戸時代に川開きの呼び物として盛んになった花火大会。今や各地の観光の呼び物や、夏の風物詩となっている。その大会も最後の尺玉や仕掛が終わると、一気に現実の世界へと放り出されたような気がする。頭上には月だけが残されていた。始まる前に見た位置とは随分違う所にあることに気付いた。感動していた時間の経過を、月の動きによって表現しているところがユニークである。
 えぞにうの丈なす中央分離帯
 「えぞにうの丈なす」と、冒頭に示すことにより、先ず、その美しさのなかにも逞しさが見えてくる。場所は山でも原野でもなく「中央分離帯」。北海道ならではの広大な景色が生き生きと表現されている。

扁額の涼しき虚子の文字であり  高田 茂子(磐 田)

 この「涼しき文字」は一連の作品から考えると、飯田蛇笏、龍太の生家〝山廬〟に違いない。表現はいたってシンプルであるが、その前に立つ作者の気持は充分に伝わってくる。

桐の実のよく鳴り馬頭観世音  渥美 尚作(浜 松)

 誰が見ても分かりやすい姿の「馬頭観世音」。一般には馬の無病息災の守り神とされてきた。交通手段として重要視されていたことを思うとよく分かる。「桐の実のよく鳴り」は、ただ見ただけの光景ではない。

チロリアンハットの紳士雲の峰  中山  仰(高 知)

 町なかではあまり見ることのないこの帽子。「雲の峰」の季語により、山岳地方での作と思われる。男ではなく「紳士」としたことにより、鮮明な姿が見えてくる。

美容院の鏡に写る金魚かな  中嶋 清子(多 久)

 外であったり、家の中であったり、色々な所で飼われる金魚。掲句は「美容院」の水槽か、鉢で飼われているのである。その姿が目の前の鏡の中に作者と一緒に写っている。髪形がきれいに仕上がるのを「金魚」にも見られているようで面白い。

祭笛ひとつ鏡に姉いもと  鈴木 敬子(磐 田)

 外には「祭笛」の音が聞こえている。おめかしをしながら姉妹の逸る声と姿が、そのまま「鏡」に写っている。一人ではなく「姉いもと」であることがこの句の眼目。読んでいるだけで二人の動きが見えてくる。

故郷の地酒良き名や涼新た  中山 啓子(高 知)

 「故郷」がどこかは分からないが、本人にとってはいつになっても特別の存在である。ある時、そこの「地酒」の名前を見て改めて目を止めた。子供の頃から見馴れていた、山や川の名前が書かれていたのだろうか。故郷は離れてみて始めて、その良さが分かることがたくさんあるものである。

京菓子に薄き栞や涼新た  藤田 光代(牧之原)

 包装紙を解き、箱の蓋をとる。どんな菓子が出てくるのか心が躍る瞬間である。先ず目に入ったのが「薄き栞」であった。そこには店や菓子の謂れが書いてあった。それらを知ることにより、ひと味深く感じられるのも確か。「京菓子」は特に季節を大切にしている。

満中陰色なき風の渡りけり  飯塚比呂子(群 馬)

 あまり聞き馴れない「満中陰」という言葉。俗に言う四十九日、七七日のことであり、死者追善の最大の法要をする日である。秋風を色で表現したものに〝白風〟〝金風〟があるが、掲句にはやはり「色なき風」がふさわしい。

産院の大きな時計合歓の花  石田 千穂(札 幌)

 赤ちゃんが産まれてくるのを皆が待っている。「産院の大きな時計」は、どこの時計より注目されることであろう。窓辺に見える「合歓の花」が、やさしく一句を支えている。



    その他の感銘句
霧襖開けて出て来るロープウェー
七夕の明るき月を見てをりぬ
煮返しのカレーの匂ひ法師蝉
夏終る食虫植物ふたを開け
揚花火空にハートを残しけり
秋空や人に似てゐる牛の咳
夕涼み流行の将棋子に教へ
とんぼうを風に放てば蘇る
サングラス羽目を外して遊びけり
包丁に息を合はせて冬瓜切る
さうめんの二人の昼餉終戦日
昭和の書灯下親しく繙けり
虫喰ひの帽子八月十五日
山の畑晩生の瓜の良く育つ
性に合ふいつもの野良着文化の日
高山 京子
宇於崎桂子
高橋 茂子
山本 絹子
野田 弘子
森  志保
髙部 宗夫
富岡のり子
内田 景子
大石美枝子
山口 和恵
朝日 幸子
中野 宏子
植田美佐子
若林 光一


白魚火集
〔同人・会員作品〕 巻頭句
白岩敏秀選

 名 張  檜林 弘一

睡蓮の水を平らにして開く
単線の本線離れゆく晩夏
銀漢を仰ぐ良き夢見るために
秋の浜呟きほどの波立つる
土産屋に秋の風鈴鳴りあへる

 
 出 雲  森脇 和惠

大社への天平古道夏つばめ
不意の客ありし休日アッパッパ
誕生の一報を待つ百日紅
退院は自由の身なりソーダ水
一音を上げて終はりぬ祭笛



白魚火秀句
白岩敏秀


秋の浜呟きほどの波立つる  檜林 弘一(名 張)

 海水浴で賑わった浜も、今は秋風の吹く浜に変わった。夏の賑わいを煽り立てたように打ち寄せていた波は、呟きほどの静けさ。静かに寄せて引く波のリズムは、夏へのノスタルジアを奏でているようだ。
 土産屋に秋の風鈴鳴りあへる
 夏には涼しさを呼ぶ音として、重宝がられた風鈴も秋には厄介者扱いにされる。土産屋もしょうことなしに吊っているが、音のうるさい風鈴に何となく迷惑そう。いくら邪険にされても、風鈴は風が来れば鳴る外はない。残された風鈴達が不満を託ち合っている様子が「鳴きあへる」の一言。

不意の客ありし休日アッパッパ  森脇 和惠(出 雲)

 まさか!今日お出でになるとは。休みの日に寛いだ気持ちで、アッパッパを着て庭いじりしている時に不意の来客。ご近所さんなら兎も角、例えば、夫の上司などであったら大変である。作者の慌て振りが見えてこようというもの。眉間に皺を寄せてつくる俳句も悪くないが、ユーモアのある句がもっとあってもいい。

休暇明け小学校の窓が開く  長谷川 文子(雲 南)

 一ケ月ものあいだ固く閉められていた小学校の窓が開いた。子ども達の声が教室に校庭に戻ってきた。二学期が始まったのである。開いた窓は新しいものが始まる合図。窓からは子ども達の明るい未来が展望できそうだ。

祖母のゐて父ゐて縁にまくは瓜  小玉みづえ(松 江)

 真桑瓜は岐阜県真桑村(現在の本巣市)の特産であったところからついた名であるという。
 少し日の翳ってきた縁側で、よく冷えた黄金色の瓜を食べる。祖母が居て、父が居てそして作者がいる。三人とまくわ瓜の描写だけだが、あたたかな雰囲気が伝わって来る。「縁」や「まくは瓜」の飾らない言葉が仲の良い家族の姿を伝えているからである。

一輪の薔薇剪るひびき今朝の秋  江連 江女(宇都宮)

 暦の上だけと思っていても、秋立つと聞くと何となく気持ちが秋へ傾いてゆく。薔薇を剪った音さえも昨日とは違ってよく響く、と思う。秋立つ気分を鋏の音でさりげなく表現している。

天の川旅のひと日を船の上  溝口 正泰(磐 田)

 デッキに出てみると、海上は漆黒の闇の世界。聞こえてくるのは、低くひびくエンジンの音のみ。空には旅の幸先を祝うように天の川が横たわっている。旅程に組み込まれた一日だけの船旅を満喫している作者。〈秋の航一大紺円盤の中 中村草田男〉とまた趣を異にする。

秋立つ日子はあつけなく嫁ぎゆく  吉田 博子(東広島)

 手塩にかけて育てた娘が結婚することになった。手落ちのないように色々と準備したのだが、式はマニュアル通りとんとんと無事に終わった。嫁ぐまでの年月に比べれば結婚式はあっという間の出来事。大事な娘を嫁がせる母親の喜びとさみしさが「あつけなく」に籠められていよう。

白木槿和尚の語る父の事  石田 千穂(札 幌)

 父上を知っているといえば、それなりに高齢の和尚であろう。盆供養の時に遺影を見ながら語ったのであろうか。和尚がぽつりぽつり話す父の話に相槌を打っている。時には作者の知らない話もあったろう。父を語る和尚の懐かしそうな顔が浮かんでくる。父に対するよい供養となった和尚の話である。

小次郎も武蔵もをんな村芝居  坪田 旨利(東 京)

 読み始めて新学説が現れたかと思いきや、村芝居であったとは! 
 舞台の背景には巌流島の海の白波が描かれている。舞台の中央は小次郎の燕返しの剣と武蔵の櫂の木剣との決闘シーン。両者の黄色い気合いの声に客席はやんやの喝采。かくて、村の夏は賑やかに更けていく。

夏の陽が夕日となりて波に消ゆ  森山真由美(出 雲)

 よく遊んだ海の一日。気がつけば夏の日が西に傾き、やがて夕日となって波に消えていった。頭上で容赦なく照っていた太陽が衰えつつ波間に沈んでいく。その時間の経過を「夕日となりて」と見事に捉えている。


    その他触れたかった秀句     

天高し朝礼台の足に錆
病葉の音を重ねて散つてをり
夏の雲小さく湧いて旅の朝
コスモスに風来て子等の現るる
角ごとに木犀の香のあらたまる
栗鼠跳んで色付き初むるななかまど
流燈の母かもいつも離れがち
月あかり空き家の軒の竹箒
襞深き朝顔の紺ぬれてをり
爪先に砂の混ざりし踊り足袋
花は葉を葉は花を見ず曼珠沙華
混沌の詰まつてをりぬ柘榴の実
幼子と話の合うて生身魂
祭笛指が覚えてをりにけり
ぽつねんと虫籠ひとつ置いてあり
人去れば人来るベンチ秋桜
幼児語の分からぬままや秋うらら

渥美 尚作
篠原  亮
原  和子
松本 義久
鷹羽 克子
吉川 紀子
古川 松枝
井上 科子
鈴木けい子
吉川ユキ子
北原みどり
松浦 玲子
清水 京子
國田 修司
谷田部シツイ
剱持 妙子
久保美津女

禁無断転載