最終更新日(update) 2018.12.01 

  平成28年度 みづうみ賞  
             平成30年12月号より転載


発表
平成三十年度 第二十六回「みづうみ賞」発表
 第二十六回みづうみ賞応募作品について予選・本選の結果、それぞれ入賞者を決定いたしました。御応募の方々に対し厚く御礼申し上げます。


          平成三十年十一月     主宰  白岩 敏秀

 (名前をクリックするとその作品へジャンプします。)   
  
みづうみ賞 1篇
木の根明く 奥野津矢子  (札 幌)
秀作賞   5篇
初日の出 岡崎 健風
(札 幌)
赤 手 蟹 田口  耕
(島 根)
こふのとり 原  みさ (雲 南)
秋 の 海 斎藤 文子  (磐 田)
墓 洗 ふ 三原 白鴉 (出 雲)
 
   みづうみ賞  1篇
   奥野津矢子 (札 幌)
 
   木の根明く
雪濁りやん衆部屋に日の当たり
凍裂の松に触れゆく遅春かな
小さくなる中洲で太る蕗の薹
木の根明く潮入川へ山の水
草笛のつまらぬ音となりにけり
葉桜に美しき虫こぶ風騒ぐ
正門があれば裏門蟻地獄
風涼し揺るるため咲くけむりの木
丸めては太る紙屑天花粉
苔清水素直な風の来てをりぬ
青ぶだう空の片隅から晴るる
石壁のきれいに残る蛍草
秋の蚊を払ふ帽子に風入れて
緩みなき暖簾の文字や新走り
正座して測る血圧朴落葉
雪の窓優先席の空いてをり
鯛焼に小さき翼のありにけり
風邪貰ひけり手の平に正露丸
短日の店先に吊る笊・束子
極月の新聞小説佳境なり



  受賞のことば   奥野津矢子
  想像もしていなかった北海道の大きな地震と大規模停電の為、皆様に大変なご心配をお掛けしている中、みづうみ賞決定のお知らせを戴きました。余震がまだ続き頭の中がふわふわしている状態で、何度も通知書を読み返しました。今回が二十六回目になるみづうみ賞に、長い間挑戦してきた様に思います。
  休んだ年もありましたが、句を揃える事に必死、並べる事に必死、題を付ける事にも苦労しました。予選落ちで気力が萎えたりもしました。二十一回目からは投句が二十句になり、少しは楽になるかと思いましたが、自選の難しさが増すばかりでした。
  そんなこんなの毎年でしたが今回この賞を戴く事が出来ましたのは、いつも一緒に吟行・句会をして下さる仲間が居てこそと感謝の気持ちで一杯です。まだまだ力不足の作品だと思いますが、目を通して下さいました曙作家の先生方、そしていつも適切で優しく指導をして下さる主宰白岩敏秀先生のお蔭と心からお礼申し上げます。
  有り難う御座いました。


住所 札幌市南区
生年 昭和二十四年


 秀 作 賞   5篇
   岡崎 健風 (札 幌)
   初日の出
あかねさす大雪山や初日の出
慎重に押す落款や筆始め
春一番巫女の千早を翻す
つぎはぎの縄文土器や地虫出づ
走り根を避けて敷きをり花筵
クリオネを掬ひ流氷鳴くを聞く
オホーツクの海傾けて雲丹を突く
空知野は一望千里代田掻く
一都師の形見の軸や風炉点前
ふくよかな胸に揺れをり愛の羽根
窓開けて落とす書斎の大氷柱
大寒や鼻先で開く自動ドア
寒月をよぎる東京最終便
朝神饌を運ぶ参道霧氷降る
ダイヤモンドダスト煌めく朱の社


   田口  耕 (島 根)
   赤 手 蟹
隠岐院へ手向けの刀淑気満つ
早春の校舎より降る子らの声
登校の列を横切るきぎすかな
菜の花や飛行機雲の筋交ひに
春夕焼遠流の島をつつみけり
フライパンに油のはぬる立夏かな
呼べばすぐ集まる牛や夏野原
校庭を列なして行く赤手蟹
老鶯の声ふりしぼる地震の後
渡し舟秋の夕日に呑まれけり
みささぎの空めぐり行く秋つばめ
刀匠の仕事場せまし菊の酒
漆黒の海へ消えゆく虎落笛
冬かもめ柩をのせてフェリー着く
おにぎりをこがし天皇誕生日
   

   原  みさ (雲 南)
   こふのとり
すかんぽや今に残れる丸木橋
花ぐもり村を比翼のこふのとり
真青なる空へ向かひてしやぼん玉
電柱の上に巣組みのこふのとり
藤棚に鳥観察のベンチあり
藁葺のままの旧家や種案山子
ふらここや声を弾ませ天を蹴る
巣籠りの真下一輌電車かな
茶摘女の声の賑はふ山の畑
尾を振つて蝌蚪の濁せる水田かな
交々に巣立ち四羽のこふのとり
巣立鳥棚田の畦へ降り立ちぬ
麦笛や土手駆けて来る下校の子
ゆさゆさと波を生みつつ蛇泳ぐ
村中に植田広ごる朝かな


   斎藤 文子 (磐 田)
   秋 の 海
顔洗ふ立春の水ひろげつつ
蝶の昼窓辺にパレット干してあり
波音や遅日の貝を耳に当て
雑巾を固く絞りて花の冷え
初夏の水平線に雲を置き
白靴をぶら下げてゆく汀まで
新聞をたたむ風鈴鳴つてをり
梅漬けて電車の音を遠く聞く
秋簾巻く縦縞の真田紐
ワイシャツの釦取れさう朝の鵙
二百十日の階段を駆け上がる
足元の石投げてみる秋の海
吊されてをりハロウィンの竹箒
日暮来るとほつあふみの牡蠣筏
靴音の広がつてゆく師走かな


  三原 白鴉 (出 雲)
   墓 洗 ふ
ものの芽の小さき影もつ朝かな
菜の花や夕日は海へ太りつつ
ニッキ飴ひとつしやぶりて春惜しむ
盛大に標す足跡花田植
夕闇に触れて真白き朴の花
竹落葉音を消しては降り積もる
噴水の上り切つては墜ちにけり
山の水たつぷりとかけ墓洗ふ
遠く聞く夜汽車の音や賢治の忌
貰ひたる十個の柿を吊しけり
ほの昏き拝観口や初時雨
白鳥の水面叩きて飛び立てり
とんど火の風を巻きては猛りけり
軒氷柱風に曲がりてをりにけり
大寒の湖傾けて鋤簾上ぐ

無断転載を禁じます