最終更新日(Update)'14.04.01

白魚火 平成26年4月号 抜粋

 
(通巻第704号)
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 4月号目次
    (アンダーライン文字列をクリックするとその項目にジャンプします。)
季節の一句    宇賀神 尚雄  
「言  霊」(近詠) 仁尾正文
曙集鳥雲集(一部掲載)安食彰彦ほか
白光集(白岩敏秀選)(巻頭句のみ掲載)
       
髙島文江 、古川松枝  ほか    
白光秀句  白岩敏秀
鳥雲逍遥  青木華都子
句会報 さざんか句会  横田 茂世
白魚火集(仁尾正文選)(巻頭句のみ掲載)
          後藤政春、小林布佐子 ほか
白魚火秀句 仁尾正文


季節の一句

(宇都宮) 宇賀神 尚 雄    


焦がれ来し奥千本の桜かな  岡 あさ乃
(平成二十五年六月号 白魚火集より)

 吉野の桜を詠まれたもの。吉野は全国的に有名な桜の名所、一度は行ってみたいと誰もが思っているのではないでしょうか。
 作者は、その吉野の桜にやっと出会えたのです。長年ぜひ見たいと思っていた桜、「焦がれ来し」に、その思いが如実に込められています。しかも奥千本。吉野は麓から奥まで何千本という桜があるとされています。その奥千本、見事なまでに咲き満ちた中に浸り切っている姿が鮮やかに言い止められています。

花嫁の打掛けの如花枝垂れ  坂東 紀子
(平成二十五年六月号 白魚火集より)

 枝垂れ桜を詠まれたものでしょう。有名な枝垂れ桜は全国に数多くありますが、多分身近かな枝垂れに出会ったものと思われます。
 満開の枝垂れ、風に靡いていたかも知れぬ、その妙なる美しさに花嫁の打掛けを見たのです。あるいは逆に、こんな花嫁衣装があったらという思いが覗かれもします。何とも素敵な花模様ではあります。その華麗な姿に、作者は魅せられたのでしょう。

風出でて込み合うて来し花筏  小松みち女
(平成二十五年六月号 白魚火集より)

 池の辺りにでもおられて詠んだものでしょうか。落花の時期、池の周りから風に煽られ散って行く花片が、水面のおちこちに花筏を作っては、池の端に吹き寄せられて来ているのでしょう。漣にたぐり寄せられた花筏が、池の面を覆い尽すほどに込み合い、やがて池全体が落花で埋まってしまうことでしょう。
 花吹雪と花筏と、華やいだ桜の終焉を何気なく詠い上げたものとなっております。



曙 集
〔無鑑査同人 作品〕   

   黙  安食彰彦
如何ともしがたく黙の懐手
雪降れふれ食べよう鯉の糸造り
うるめ焼く酒席の話たあいなく
蕗の味噌句会のあとの語らひに
立春や髪を梳きをる中学生
床にある花瓶に匠春を差す
正座して眺むれば梅ささやけり
春大根会釈をしつつ抜きにけり

 千両万両  青木華都子
実万両千両も活け山の宿
陣なして日溜りが好き鴨浮き寝
鳴く鴨に応ふる鴨の二た三声
日の当る方へ方へと鴨の陣
二羽三羽来てまた四、五羽寒雀
をたけびをあげをり雪の華厳滝
風止んで雪の男体山眩し
戦場が原一面の雪の原

 余  勢  白岩敏秀
笑ひ声近づいて来る福寿草
打ち込みの余勢五六歩寒稽古
寒の水童女の舌のさくら色
凍滝の力ぬかざる白さかな
雪晴や百葉箱へ靴の跡
枯野来し男に鉄の匂ひせり
さくさくと土切る鍬に日脚伸ぶ
持ち替へてフォークの光る春隣

 徒 然 草  坂本タカ女 
闇汁の真赤な嘘のトマトかな
闇汁の鍋の底なる柿の種
雪卸し人夫のニッカーボッカーズ
逆睫抜かるる冬日顔にのせ
粗大ごみ貼り紙はりし炬燵かな
寒鰤の目玉がふたつ皿の上
返り咲く色寄り添うて金魚草
徒然草てふ駄菓子つれづれ女正月

 浮 寝 鴨  鈴木三都夫
誰彼と御慶親しきどんどかな
直会の肴は鯣どんど終ふ
一宮勅使参道青木の実
その科の枯れてもしだれ桜かな
臘梅の香の滞りをるところ
かがなべて掛けし手塩の冬牡丹
人知れず落ちて日を浴ぶ藪椿
鴨ゐるはゐるは浮寝を分ちあひ
 初  湯  山根仙花
庭石のどつかと座り山ねむる
冬海へ灯台孤独の灯を廻す
煮凝りの舌に溶けゆく一人の餉
針山に針の林立寒に入る
雲一つなき寒晴れとなりにけり
賜りし余生やふふむ寒の水
人生の余白を生きて屠蘇祝ふ
初湯出て短き十指反らしみる

 金時味噌  小浜史都女
仕留めたる猪に猟犬哮りけり
薄氷に地団駄踏みし跡ありぬ
姫沙羅にしろがねの芽や四温晴
「くまもん」の鸚鵡返しや春隣
やらはれし闇匂ひけり節分会
立春の金時味噌を飯の上
巣づくりのはじまつてゐる砂防ダム
磧焼き風が大きくなりにけり

 潮 の 香  小林梨花
金網の向かふに続く雪の原
石垣の裾にひらりと冬の蝶
海へ傘傾け歩む寒の入
寒雀群れて大樹を占領す
大寒の水をたつぷり手向けけり
盆栽の松の上なる忘れ雪
海苔あぶる厨に仄と潮の香
波飛沫かかり艶めく桜の芽

 仏  道  鶴見一石子
男体の雪襞太くきほひ立つ
一番星消えゆく大地冴返る
海光の三保の松原朝霞
義の史実つたふる湖沼鳥帰る
春蘭の張りつく岩場仏道
磯節の浪轟轟と春を呼ぶ
春耕の畝千本の息づきす
かぐや姫ゐさうな嵯峨野竹朧

 日脚伸ぶ  渡邉春枝
大寒の森を出できし水の音
竹一本わたす結界寒牡丹
北風吹くや捕虜収容所ありし跡
水音の砕けて寒き寺苑かな
外出のつづく週末日脚伸ぶ
とんどの火爆ぜて地酒の旨かりし
土鈴の音それぞれに寒明くる
山の歌うたひて芽立ち促せり


鳥雲集
一部のみ。 順次掲載  

 薔薇の芽  小川惠子
息白し磴駈け上がるサッカー部
丁稚小僧ゐさうな蔵の大火鉢
大寒の味噌汁に舌焦がしけり
梅ふふむ鳥居に触るる一枝より
薔薇の芽にささくれ風の容赦なく
桜の芽園児募集の案内板

 吉 書 揚  奥野津矢子
語部のねぢりはちまき炉火熾ん
息白し廊下の角をまるくゆく
半纏の手が火を掻ける吉書揚
天空に鳶の旋回どんど燃ゆ
枯れ落ちてかさこそ騒ぐつるでまり
すばしこくなる三寒の河烏

 春 の 景  齋藤  都
早梅に弾みて来るよ園児服
春めくや砂場で直す袖の丈
公園の椅子深すぐる春の昼
水に添ひ起伏に添ひて春の風
春立つや封書の糊の早や乾く
たたう紙のセロハン越しの春袷

 初 景 色  西田美木子
風神の機嫌うかがひ雪を掻く
手で洗ふ襁褓日脚の伸びにけり
日向ぼこ胡座の中に稚を置き
きらきらと蝦夷には蝦夷の初景色
庖丁始人参一本千切りに
あたたかやみどり児といふ丸きもの

 一 等 星  谷山瑞枝
楼門に彫られし干支や明の春
母用の雑煮の餅を四半分
凍満月一等星を引き寄せぬ
麦の芽や低く飛んでは休む鷺
一病もなくて軽やか四温晴
飛石のあれば跳ぶなり春隣
 
 冬  萌  出口サツエ
一湾の潮目定かに淑気満つ
透き通る鳥の一声寒の晴
探梅や生家の見ゆるところまで
日の温みありて廃家の梅早し
冬萌や小流れ跳べば跳べさうな
歩き出すまでの寒さと思ひけり 

 雪 眼 鏡  村上尚子
犬進む方を恵方と信じけり
白鳥に見られて池を巡りけり
雪催切り倒す木に×印
雪眼鏡外すそれほど若からず
ひらめ干す沖まで晴れて日本海
風花や丹波但馬の国境

 新  雪  森 淳子
古暦いはくありげな二重丸
母偲ぶよすがとなりし雑煮かな
ポストまで新雪踏んでゆきにけり
歌留多とる手の重なりし夜もありし
味噌汁のうまき四日となりにけり
掌中の重さ確かむ寒卵

 立  春  諸岡ひとし
山茶花の夜来の風に散りにけり
幼子が母の手に盛る年の豆
老二人年の豆食ふ五六粒
満開の梅に番の鳥遊ぶ
春立つや白き浮雲青き空
立春の頬掠め降る細雪




白光集
〔同人作品〕 巻頭句
白岩敏秀選

 髙島 文江

凍ゆるむ口ほどけ良き京干菓子
春立ちぬ大鍋二つしもつかれ
赤飯のうすくれなゐの春立ちぬ
米を磨ぐやさしく磨ぎぬ水の春
春の水ぽろんと小さき音立つる


 古川 松枝

寒雀転がるやうに舞ひ降りぬ
診察待つ咳の一人が呼ばれけり
涸滝となりても音の蘇る
土地勘の当てにもならぬ梅探る
凍てゆるみ夕日とろりと落ちにけり



白光秀句
白岩敏秀


凍ゆるむ口ほどけ良き京干菓子  髙島 文江

 この句の「口ほどけ」は辞書には載っていなかったが、干菓子と組み合わされるその意味は理解できる。干菓子は水分が二十パーセント以下の菓子を指し、落雁や和三盆が想像される。京菓子は彩りを楽しみ、香りや味を賞味しそして菓子の名前の響きを味わうのだという。京菓子には四季折々の季節感が溢れている。
 この句は口のなかで柔らかくとけていく干菓子に「凍ゆるむ」の感覚を重ねて、春の到来の喜びを表している。日常の暮らしに発見した明るく開放的な春の到来である。
 赤飯のうすくれなゐの春立ちぬ
 春はうすくれないだと捉え、それは赤飯のうすくれないだという。「うすくれなゐに春立ちぬ」でもなければ、「うすくれなゐ色の春」でもない。春そのものが赤飯のうすくれないなのである。ユニークな発想である。

涸滝となりても音の蘇る  古川 松枝

 この句について鈴木三都夫先生の素晴らしい観賞がある。「目の前に見えているのは水涸れとなった冬の滝である。寒々とした一条の滝だが耳の奥には夏の轟き落ちる勇壮な滝音が聞こえてくるようだと言う。本物より迫力を感じる臨場感である」
 俳人は詩情を求めて、時の流れをさかのぼることがある。

水仙の嬰のやうなる顔並べ  井原 紀子

 水仙の句といえば松本たかしの〈水仙や古鏡の如く花をかゝぐ〉が思い起こされる。たかしのこの句に山本健吉は「水仙の中に、水仙を通して、古鏡の澄み切った冷たい面が、間違いなく一つのはっきりした「形」として、一瞬の閃光のように浮かび上がるのだ」と言っている。 (『現代俳句』山本健吉 角川文庫)
 対して、揚句は古鏡のような冷たさではなく、赤ん坊の柔和な笑顔と可憐さを見出している。「嬰のようなる顔」に思い至るまでには、長い凝視の時間があったに違いない。そして、凝視して見えた一瞬の光りを十七音に定着させた。
 見るだけでは、自然は何も語りかけてこないことを教えられた句である。

みづうみの風向き変る春田打  岡 あさ乃

 風向きは季節によって異なる。春は東風、夏は南風、秋は西風、冬は北風である。東風が吹き始めると春。
 冬の田の眠りを覚ますように始まった春田打ち。冷たく身を刺すような湖風に黙々と耕していく。折しも東の方から吹いた風に鍬を休めて湖を眺める。湖面には日差しを受けたさざ波がきらきらと輝いている。
 万物の発生が小さな葦牙であったように、春の訪れが湖の僅かな風向きで示されている。やがて本格的な春の風が湖に吹き始める。

裸木や溢るるほどに日を纏ひ  阿部芙美子

 裸木には寒々としたマイナスイメージがあるが、この句は違った。「あふるる」ほどに太陽の恵みを貰っているのだ。春に向かって芽ぐみ、新しい生命を育てるには、たっぷりと日の光が必要である。この句にはネガティブなものをポジティブに変える不思議な力がある。

日向とは別の明るさ犬ふぐり  影山美代子

 犬ふぐりは〈午過ぎて花閉ぢかゝる犬ふぐり 松本たかし〉のように朝開き夕方には散る一日花である。犬ふぐりは晴天の太陽とともにある。
地表をびっしりと覆い、瑠璃色に星をちりばめたように咲く。真昼の太陽の明るさとは別の星の明るさである。路傍で見つけた小さな明るい春。

焚火して善男善女迎へをり  塚本美知子

 お寺で何かの行事がおこなわれるところだろうか。境内で焚火が大きく燃えている。参詣の人達が焚火に寄っては離れていく。
 焚火だけを描写して、他のことは一切沈黙しているが、お参りする人達の賑わいや焚火が焚かれている時間まで感じられる。寡黙な句であるがゆえに余白が大きく、読者のイメージを楽しく膨らませてくれる。

鉢花の占むる縁側白障子  大澤のり子

 冬の寒さから守るために縁側に上げた鉢花だろう。縁側で寒さを凌ぎながら、白障子の返す明るい日差しを浴びている。
〈鉢花を寒さから守ってあげよう〉という慈しみの気持ちと 〈春になったら元気に咲いてね〉という願望も感じられる句である。
 鉢花は白障子が大きく開かれる頃には、作者の願いに立派に応えているにちがいない。


    その他の感銘句
ずつしりと肩に重たき寒さかな
水音に近づいてゆく初詣
初糶に向ふ仔牛の鳴きにけり
段畑に影の屈折日脚伸ぶ
雪催ひ納屋に眠れる三年味噌
大寒や二人のたまごかけごはん
松過ぎて慶びごとの便りあり
花柄のエプロンつける春立つ日
若水や石燈籠の灯のゆらぎ
水仙の香につつまれて歩きけり
一羽きてまた一羽きて初雀
燭台に蝋のあふるる五日かな
書初の文鎮正し座を正す
実万両馬頭観音までの坂
朝焚火いつもの顔の揃ひけり
田部井いつ子
中村 國司
新開 幸子
坂田 吉康
山田 春子
若林 眞弓
福永喜代美
根本 敦子
大隈ひろみ
山本 美好
勝部チエ子
金原 敬子
井上 科子
三浦 紗和
貞広 晃平


鳥雲逍遥(3月号より)
青木華都子

吟行の余韻にひたる露の宿
大鉢の水しんとして蓮枯るる
榛名嶺にたちまち及ぶ時雨雲
風音の乾き切つたる枯野かな
外堀は琵琶湖に続き寒波来る
小春日の蝶々は翅で息をする
雪しぐれ蔵元に門残りたる
指先の傷の脈打つ虎落笛
読初や牧水の歌声にして
菰一枚垂らし神馬の冬仕度
日常の暮しに戻り初日記
数へ日や山の向かうの山に雪
霜の花牛の乳房の温きかな
板前の白長靴も十二月
雲染めつ湖面を染めつ初日の出
鴨降りて少し華やぐ山の湖
白魚火誌七百号で年終る
地下足袋を一つ潰せり十二月
雨粒の一つ一つや冬芽たつ
手の平に受く綿虫の息づけり

今井 星女
梶川 裕子
金井 秀穂
坂下 昇子
野沢 建代
奥木 温子
清水 和子
辻 すみよ
源  伸枝
横田じゅんこ
浅野 数方
渥美 絹代
柴山 要作
西村 松子
久家 希世
篠原 庄治
竹元 抽彩
福田  勇
荒木千都江
大村 泰子



白魚火集
〔同人・会員作品〕 巻頭句
仁尾正文選

 高 松  後藤 政春

夜回りの鉦の過ぎゆく大晦日
鷺一羽佇ちたる川の淑気かな
神苑の樟のざわめき寒昴
笹子鳴く鎮守の杜のをちこちに
探梅や橋を渡りて僧戻る

 
 旭 川  小林布佐子

人が来て卓をつなげり女正月
冬日さす机上の津軽塗のペン
百年のオルガンの蓋寒波くる
孤高なる鴉なりけり寒日和
降りしきる雪の帳の中を掻く



白魚火秀句
仁尾正文


 探梅や橋を渡りて僧戻る  後藤 政春

 探梅と橋を渡って戻る僧との取合せであるが、下句の具象が一語一語明快だ。八日八晩不眠で座禅を組む十二月の臘八会がある雪安居の終った頃であるが、この僧については読者の受け取りに任せている。だからそれぞれが描いた像で自由に受け取ってよい。
 作者は、公民館の俳句クラブでホトトギスの同人と句会をしているが、添削を優れた俳人、高田風人子氏から得ているというからいい勉強になっていることであろう。また、鍵和田秞子氏の「未来図」の同人とも毎月句会し、両句会とも吟行もしている。又琴平へは電車で三十分位であるから、毎年伝統俳句協会長の稲畑汀子氏が常任選者をしている「四国こんぴら歌舞伎大芝居」の応募作品の吟行にも力を入れているのであろう。平成二十四年四月は人間国宝の中村吉衛門丈が座頭として来濱した時汀子選の正賞十句に入選した。
 歌舞伎観に卒寿の母の花衣政春 
 ここでは東西屈指の尾上菊五郎らの名優が日本最古の金丸座で三週間興行を続けるという豪華なものである。
 平成二十四年朝日新聞香川版の俳壇では年間賞を得た。
 凱旋の力士がおらぶ鬼は外政春 
 今年は、四国新聞読者文芸の俳句部門に
 粽解く力士志願の大きな手政春 
が年間賞に決定、三月一日常任選者宇田喜代子氏(蛇笏賞受賞)より手渡されることになっている。
 今回同人賞受賞の後藤政春君のプロフィールの代りに少し長い選評となった。この賞の上には白魚火賞があるのでそれを目差して欲しい。

人が来て卓をつなげり女正月  小林布佐子

 この作者も同人賞を得て何年かになる。すぐにでも白魚火賞を受けるのでないかと思われたが伸び悩んでいる。鏤骨の跡が残っていてこれが瑕瑾になっている。旨く言わんとしたことがその因のように思う。
 桐の花剣岳切先出しにけり山田みづえ 
 何時も引き合いに出すが、この下句は無技巧に見えて至芸である。句姿、声調とも快よい。
 頭掲句は、女正月に一卓置いていた所へ、友人たちのグループが来てもう一卓継ぎ足したのである。無駄な言葉も飾りもなく、女正月の雰囲気がよく出ている。こういう方向を推奨したい。
 なお、この作者は平成二十年北海道俳句協会の二十句によるコンクールで正賞に輝いた実績があることを紹介しておく。

どんどの火餅焼く事も厄払ひ  大石 越代

 何処でもそうであるが、大勢で同じ行事を見ると殆んど同じような句が見えて選者をがっかりさせる。その中で季語が三つもあるにかかわらず掲句に注目した。
 どんども火祭、それも火災による無惨な焼死を防ぐ意味合いが強い。火事は江戸の華といわれたが余りの多さに寺社奉行は、秋葉三尺坊大権現に正一位を贈り防火を祷った。どんどの火で餅を焼くことも火の厄災払いにつながる、と作者は捉えた。そういった目配りや飛躍こそ吟行の醍醐味であろう。

波音も潮の匂ひも二月かな  今津  保

 三音の季語は掲句の如く用いるべきである。「風五月」とか「街薄暑」「縁小春」の「風」「街」「縁」は場所をくっつけて五音にしているのだが、詰まって息苦しくしているだけで言葉ひいては一句の足を引っぱっている。序に言うと「猫昼寝」というようなのがあるが、「昼寝」は人間に係る季語で「猫昼寝」は無季である。

祖父の忌を畳替へして修しけり  出口 廣志

 「祖父の忌」「畳替へして」「修しけり」どのしらべも明快。そして頭から一本通ったひびきがすかっとしている。石田波郷は「霜柱俳句は切字響きけり」を示して韻文を強調した。俳句で一句の内容と韻律のどちらが大事かという問に「どちらも大事であるが強いていうと韻律の方にウエイトを少し多く置いている」と言っている。
 先師一都は「わが俳句足もて作るいぬふぐり」を示して外に出て大自然から句を得よと唱導した。韻律を重視する文語体の俳句には俵万智氏の「サラダ記念日」式の口語表現は難しい。

霜柱ざくつと沈む靴のあと  鈴木 和枝

 霜柱がざくっと踏まれて沈んでいる。靴跡を見ると子供だけでなく大人のものもある。霜柱は誰でも踏み崩してみたいもの。素朴な作品であるが共感する向きが多かろう。

束の間の大家族なる寝正月  吉野すみれ

 戦前戦中の一家の構成は祖母が居て、家長が居て総領夫婦に二、三人の子や総領の兄弟、姉妹も居て大抵は八名九名という数であった。正月になると離れて暮す二男夫婦や娘の一家が子供を連れて帰省するので客間も居間も大家族時代同様の状態で寝正月をしている。


    その他触れたかった秀句     
湯立舞面をつけて神となる
威勢よく初釜の炭熾りけり
熊笹の縁の金色初明り
撤饌の大鯛捌く五日かな
馬上盃出して年酒の盛り上がり
水平に止まるシーソーあたたかし
鴨の声も写しますよとカメラマン
火の山へ木刀構へ寒稽古
白魚の透きて細胞まで見ゆる
親と子の声ぶつかつて歌留多とる
着ぶくれて日進も三進もいかぬなり
珈琲の湯気のうづまく余寒かな
寒雀おなじ木おなじ枝に来る
特急の止まらぬ駅の野水仙
注連飾り隣も前も羊羹屋
安澤 啓子
大平 照子
佐藤陸前子
大庭 南子
早志 德三
星  揚子
生馬 明子
天野 幸尖
福間 弘子
塩野 昌治
良知あき子
仲島 伸枝
吉原絵美子
中村 和三
金原 敬子

禁無断転載