最終更新日(update) 2018.12.01
句会報(H29) 転載
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白魚火出雲俳句会 ―白岩主宰を迎えて― 平成30年2月号掲載
群馬白魚火会 平成30年2月号掲載
金曜句会合同句集 「君子蘭」祝賀会
平成30年2月号掲載
平成二十九年度栃木白魚火 第二回鍛練吟行句会 平成30年2月号掲載
坑道句会須佐神社吟行記 平成30年2月号掲載
旭川白魚火会忘年句会 平成30年3月号掲載
栃木白魚火忘年句会報 平成30年3月号掲載
旭川白魚火会新年句会 平成30年3月号掲載
栃木白魚火新春俳句大会 平成30年3月号掲載
坑道句会 荒木古川句碑吟行記 平成30年5月号掲載
名古屋句会 平成30年6月号掲載

浜松白魚火会
第二十回(創立三十周年記念)総会・句会

平成30年6月号掲載

栃木白魚火会総会・俳句大会

平成30年7月号掲載

坑道句会報 第七号

平成30年7月号掲載

静岡白魚火 総会記

平成30年8月号掲載

函館俳句大会入賞作品紹介

平成30年8月号掲載

群馬白魚火会総会並びに句会

平成30年8月号掲載

第五回栃木・東京白魚火合同句会報告

平成30年8月号掲載

坑道句会(七月例会)報

平成30年9月号掲載

平成三十年度「浜松白魚火会」吟行記

平成30年9月号掲載

平成三十年 実桜総会・吟行会

平成30年9月号掲載

平成三十年度栃木白魚火 第一回鍛錬吟行句会報

平成30年10月号掲載

佐賀白魚火鍛練会

平成30年10月号掲載

白魚火坑道句会 日御碕吟行句会報

平成30年11月号掲載

白岩敏秀主宰をお迎えして
第六回東京・栃木白魚火有志合同吟行会

平成30年12月号掲載

旭川白魚火 「鷹栖句碑の森」吟行会

平成30年12月号掲載

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平成30年2月号掲載 句会報

白魚火出雲俳句会―白岩主宰を迎えて―

山本 絹子

平成30年2月号へ 

 十一月二十六日(日)、白岩主宰にお越しいただき、白魚火出雲俳句会をJAしまね出雲地区本部会議室において開きました。この日の参会者は五十九名(出句は六十四名)、事前投句(各三句)について当日句会を行い、主宰の指導を仰ぎました。
 開会にあたり石川寿樹氏より「しっかり勉強して親睦を深めましょう。私は『みづうみ賞』に応募した時に白岩主宰より丁寧な評と指導をいただき感銘を受けましたので、今日はしっかり勉強したいと思います」という挨拶がありました。主宰からは「今日はたくさん集まっていただきありがとうございます。なごやかに大いに勉強していきましょう」との言葉をいただきました。
 句会ではまず三十分かけて互選を五句ずつ行いました。主宰には特選十句と入選二十五句を選んでいただきました。その後渡部美知子氏、西村松子氏によって披講がなされ、最後に主宰から、特選句、入選句の発表と選評をいただきました。
 その後主宰より次のようなお話やご指導をいただきました。
*選をする時に心がけていること。
 ・リズムが良い句であるか。リズムがあれば勢いが生れる。十七音を長く感じたり、途中でつかえたりするところがあるのは×
 ・作者が何を言おうとしているかイメージできる句であるか。
 ・景が見える句であるか。
 ・感じる句であるか。
  つまり読んですっと理解できる句かどうかが選の分かれ目。自分勝手な句は×
*誤字、脱字がないようにする。常に辞書を引いて確認する。
*料理の句は作者だけが満足しているのはいけない。食べてみたくなるように作る。
*連体形であるべきところを終止形にしてしまう間違いが多い。終止形と連体形では意味が違ってくる。サ行変格活用や下二段活用にも気をつける。
 ・「水溢る川」ではなく「水溢るる川」とする。終止形では「水溢る/川」と切れてしまう。水の溢れる川を言うなら「水溢るる川」としなければいけない。
 ・「神おはす出雲」ではなく「神おはする出雲」とする。「神おはす/出雲」と切れる。
 ・「寄す波」ではなく「寄する波」とする。「寄す/波」と切れる。
  未然形(下に「ず」がつく活用の形)にしたときに、「おはせず(サ変)」「寄せず(下二)」のように「ず」の上が「エ」音になるときは、連体形は「~る」ではなく「~する」となる。
*形容詞にも気をつける。
 ・「敷藁の厚き牡丹」ではなく「敷藁の厚し牡丹」とする。「厚き」と連体形にすると牡丹が厚いという意味になる。
*「て」の上には「ふ」をつけない。
 ・「花の名を問ふて」ではなく「問ひて」あるいは「問うて」となる。
  接続助詞「て」は、活用語の連用形につく。「問ふ」の連用形は「問ひ」なので、「問ひて」が正しい。「問うて」は「問ひて」のウ音便である。
*本が届いたら自分の句を見て、それが直してあったら、なぜ直されたかを考えてみる。直されるには理由がある。文法が違っているので直されたのかもしれない。あるいは景がよく見えるように直されたのかもしれない。そこを学んでほしい。
*俳句の作り方は、基本的には三通りである。
 ・「季語」「何が」「どうした」
 ・「何が」「季語」「どうした」
 ・「何が」「どうした」「季語」
 これをマスターすれば目に見えるものは、みんな俳句になる。日常がすべて俳句になる。

 白岩敏秀主宰詠
銅剣をレプリカにして山粧ふ
頂上や銀河しぐれのなかに坐す
深海のごとく村あり蕎麦の花

 白岩敏秀主宰特選句
胸板の厚き姫君村芝居        野田 弘子
エプロンの大きポケット栗拾ふ    小林 永雄
豊年や神輿の轅さらし巻く      小玉みづえ
肌寒や牛乳瓶をゆすぐ朝       原  和子
机上まで露けき夜となりにけり    山根 仙花
ガム噛んで二人の秋を惜しみけり   武永 江邨
濡れ縁の幽かな湿り月祀る      三島 玉絵
身に入むやもう擦り減らぬ母の下駄  岡 あさ乃
芭蕉忌を明日に控へてしぐれけり   渡部美知子
陸橋の錆色を巻く葛の花       木村 以佐

 白岩敏秀主宰入選句
石鼎の所縁の人と秋惜しむ      石川 寿樹
望の月共に仰ぎし師は遠く      山根 恒子
改札をすぎてまた聞く虫時雨     小林 永雄
秋風や渡りするもの羨まし      森山 暢子
宍道湖へ一閃の日矢神迎ふ      松崎  勝
清秋の碧天汚れなかりけり      渡部 幸子
空と海音を断ちたる良夜かな     渡部 幸子
鮭戻る邑さわがしくなりにけり    荒木 友子
白き毛糸編むや産着を縫ふ心地    陶山 京子
冬立てり揺るるものみな揺らしつつ  原  和子
夜寒さや満中陰の薄き文字      小村 絹代
裏木戸の音なく開く金木犀      荒木 悦子
傘立にありし白杖吾亦紅       寺田 悦子
本屋出て次の本屋へ秋うらら     武永 江邨
秋日和軒下に干す筆二本       三島 玉絵
満月や灯りを消して酌み交はす    足立智恵子
島つなぐ一本の橋野水仙       福間 弘子
ランナーの巻き上げてゆく落葉かな  三原 白鴉
雨音の消えし闇よりすがれ虫     木村 以佐
秋蝶の迷ひ込みたる一号車      原田万里子
潮の香を纏ひ砂丘の秋惜しむ     西村 松子
神名火山の裾の広さや稲架を組む   西村 松子
蜑路地を曲がれば秋の日本海     生馬 明子
色変へぬ松や土蔵の連子窓      藤原 益世
櫓田を出雲駅伝駆けぬける      森脇 和惠

 高得点句
身に入むやもう擦り減らぬ母の下駄  岡 あさ乃
宍道湖へ一閃の日矢神迎ふ      松崎  勝
胸板の厚き姫君村芝居        野田 弘子
濡れ縁の幽かな湿り月祀る      三島 玉絵

 一句抄(氏名の五十音順)
すいつちよに支配されゐる写経の間  赤木 千津
満月や灯りを消して酌み交はす    足立智恵子
ヘッドライトの闇を開きて穴惑    安達美和子
裏木戸の音なく開く金木犀      荒木 悦子
水の秋芥も底に影もちて       荒木千都江
鮭戻る邑さわがしくなりにけり    荒木 友子
蜑路地を曲がれば秋の日本海     生馬 明子
石鼎の所縁の人と秋惜しむ      石川 寿樹
手水舎の水清くして初紅葉      上田惠美子
風遊ぶ軒下に干すちやんちやんこ   江角トモ子
グラス持つ赤いネイルや曼珠沙華   円城寺圓々
身に入むやもう擦り減らぬ母の下駄  岡 あさ乃
夜寒さや満中陰の薄き文字      小村 絹代
神おはする出雲へ招く主宰待つ    小沢 房子
奥宮へ磴五十段竜の玉        角田 和子
菊日和丹精の鉢回し見る       勝部 好美
残る虫晩げの言葉重なりぬ      金織 豊子
秋落暉海を切りゆく戻り船      川本すみ江
陸橋の錆色を巻く葛の花       木村 以佐
尾花摺水かぶりゐる沈下橋      久家 希世
ゆつたりと鳶の影舞ふ花野かな    郷原 和子
豊年や神輿の轅さらし巻く      小玉みづえ
エプロンの大きポケット栗拾ふ    小林 永雄
白き毛糸編むや産着を縫ふ心地    陶山 京子
ただ海を見てをり砂丘に秋惜しむ   妹尾 福子
十五夜は雲の動きに遊びをり     多久田豊子
ガム噛んで二人の秋を惜しみけり   武永 江邨
鐘の音の流るる湖や月を待つ     土江 比露
傘立にありし白杖吾亦紅       寺田 悦子
神棚へおろちの里の新走り      中林 延子
潮の香を纏ひ砂丘の秋惜しむ     西村 松子
胸板の厚き姫君村芝居        野田 弘子
冬立てり揺るるものみな揺らしつつ  原  和子
国引きの神話の浜の秋夕焼      原  みさ
故郷の風の甘さや柿すだれ      原田万里子
遠方へ転居の跡の柿熟るる      樋野 洋子
島つなぐ一本の橋野水仙       福間 弘子
松籟の止みてひときは残る虫     藤江 喨子
色変へぬ松や土蔵の連子窓      藤原 益世
鴨の陣向き変へ夕日くづしけり    船木 淑子
山粧ふ停りしままの水車小屋     細田 益子
夜稽古の鼕の震はす望の月      牧野 邦子
宍道湖へ一閃の日矢神迎ふ      松崎  勝
二十基の鼕宮の列秋惜しむ      松﨑 吉江
濡れ縁の幽かな湿り月祀る      三島 玉絵
ランナーの巻き上げてゆく落葉かな  三原 白鴉
まあ一杯膝を交へて村祭       森山 啓子
新品の法被慣じまず里祭       森山真由美
櫓田を出雲駅伝駆けぬける      森脇 和惠
簸の川の水面をゆらす渡り鳥     山﨑 敬子
机上まで露けき夜となりにけり    山根 仙花
望の月共に仰ぎし師は遠く      山根 恒子
木立透き句帳に届く秋日濃し     山根 弘子
繰り返し師の句を唱ふ夜長かな    山本 絹子
学童の声の飛び交ふ新松子      渡部 清子
清秋の碧天汚れなかりけり      渡部 幸子
芭蕉忌を明日に控へてしぐれけり   渡部美知子
栗拾ふポケットいつぱい手にいつぱい 渡部美智子
安食編集長は欠席でした。

 句会終了後、会場を隣のラピタ本店に移し、にぎやかに懇親会をしました。お互いに自己紹介をし合い理解を深めるとともに、これからも楽しく句作を続けることを誓い合いました。


平成30年2月号掲載 句会報
       群馬白魚火会
遠坂 耕筰

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 十一月二十七日、渋川市小野上温泉に於いて恒例の祝賀句会及び忘年会が開催された。毎年この時期は概ね天候に恵まれ、小春日和である。
 八下田善水さんと桐生を出たのは九時過ぎで、赤城山南面の県道をのんびりと車を走らす。道すがら大根が干してあったりする。赤城大鳥居を過ぎると遥か正面に雪を被った浅間山が見えてくる。その真新しい白さは無垢の美しさで、一都師が愛したその山容も雄大である。さらにその裾の角度は富士山とも月山とも違った絶妙の黄金率である。途中、道の駅こもちの食事処で早い昼食をとる。上州豚のカツ丼が人気メニューで、大盛りを注文する猛者
もいる。近くには白井宿があり、八重桜の季節は必見。
 会場入りから恙なく投句が揃い、開式となった。式典では今年度みづうみ賞奨励賞の竹内芳子さんへ、また新同人の関定由さんへ群馬白魚火会より記念品の贈呈があり、お二人から謝辞が述べられた。篠原会長の挨拶の後句会となり五句選句披講の後、得点上位七位までに景品、特選句に代表選者の短冊が贈呈された。最後に金井顧問が講評を述べられ句会を終了した。
 心地良い緊張から解かれて温泉に入る。文字通りの短日、暮早し。露天風呂はタやみに包まれていた。湯上りのビールを楽しみにいそいそと宴会場へ向かう。毎年恒例で同じようであるが同じではない。皆それぞれ時の流れを背負い、じわりと齢を重ねて行くのである。
  関口都亦絵 特選
堂守の煤焼けの面冬に入る     鈴木百合子
  金井 秀穂 特選
一点の瑕疵なき白さ雪浅間     遠坂 耕筰
  奥木 温子 特選
瑠璃色の空より柿を捥ぎにけり   鈴木百合子
  篠原 庄治 特選
穭田も枯れて浮世の風渡る     遠坂 耕筰
  荒井 孝子 特選
堂守の煤焼けの面冬に入る     鈴木百合子
  鈴木百合子 特選
冬月の梢に絡みつつ沈む      遠坂 耕筰
  竹内 芳子 特選
高楼に一の間二の間蔦紅葉     荒井 孝子
  関  定由 特選
産土のなつかしき顔里神楽     関 登志子
  一句抄(五十音順)
秋深し齢かくせぬ老農夫      青栁 一誠
冬ざるる切つ先磨し妙義山     天野 幸尖
高楼に一の間二の間蔦紅葉     荒井 孝子
野を渡る風しらしらと初時雨    飯塚比呂子
菊膾米寿の夫を祝い酒       岩﨑 昌子
一点の瑕疵なき白さ雪浅間     遠坂 耕筰
作業着のペンキの匂ふ小春かな   荻原 富江
錦秋や頷き歩む夫婦鳩       奥木 温子
指呼に置く榛名八峰冬うらら    金井 秀穂
りんご売る今日の店番小学生    篠崎吾都美
心地良き鋏のひびき松手入     篠原 庄治
瑠璃色の空より柿を捥ぎにけり   鈴木百合子
秋夜長多読多作に句誌を読む    関  定由
病みてまた知ることもあり冬薔薇  関 仙治郎
初雪に故無く心おどりけり     関 登志子
木の橋の木の香水の香紅葉狩    関口都亦絵
黄落の里に牧水帰去来       関本都留子
万人が一人占めして望の月     仙田美名代
小春日や夫の足音杖の音      竹内 芳子
かたはらで九九の暗唱夜長の灯   福嶋ふさ子
水澄んで低き峰から暮れにけり   宮﨑鳳仙花
継がれゆく足尾銅山初時雨     八下田善水


平成30年2月号掲載 句会報
 金曜句会合同句集「君子蘭」祝賀会  
高山 京子

平成30年2月号へ 

 十一月になり天気予報に雪だるまも見かける頃となりました。
 月に二回の金曜句会が十年目を迎えました。記念して合同句集「君子蘭」を上梓し、その祝賀会を十七日に湯の川温泉KKRホテルで開催いたしました。
 元会員の方々や、最近東京へ転居された小嶋都志子さんも駆けつけて下さいました。
 ただ残念なことに太田裕子さんが先日急逝されましたので皆で黙祷を捧げました。
 参加者は十五名で昼食をはさんで行われました。まず全員からの感謝の花束が今井星女先生に贈呈されました。続く記念撮影も、少しおしゃれした皆さんの笑顔が大きな花束となったように思います。
 星女先生から「君子蘭」についてお寄せ頂いたお便りが紹介されました。
その中で村上尚子先生からの一人一句を選んで下さったページは、コピーされて皆さんに渡されました。
 その後の「我が一句を語る」コーナーでは、各自の一句の背景などを、自由にお話して頂きました。
 つづく余興に、佐藤妙子さんが星女先生の俳句「君子蘭」二句を詩吟として吟じました。私もささやかながらアイヌ楽器ムックリを爪弾きました。國田修司さんによるアコーデオン伴奏の全員合唱では「四季の歌」「もみじ」・・・と次々懐かしい歌が流れました。
 星女先生を中心にして和気藹々と、楽しい祝賀会でした。先生に感謝し益々の金曜句会の発展を願いながら無事終えることが出来ました。


平成30年2月号掲載 句会報
平成二十九年度栃木白魚火 第二回鍛練吟行句会
星  揚子

平成30年2月号へ 

 十一月十日、栃木白魚火第二回鍛練吟行会が参加者十八名のもとに行われた。吟行地は芭蕉が『奥の細道』で十四日間滞在したとされる黒羽。
 貸切バスでまず東山雲巌寺に向かう。雲巌寺は臨済宗妙心寺派で、禅宗日本四大道場の一つ。澄んだ川を眺めつつ朱塗りの反り橋を渡り、石段を登ると山門がある。そして、その先には仏殿、禅堂、勅使門等が静かに佇んでいた。ここには芭蕉の「木啄も庵はやぶらず夏木立」の句碑がある。
 次は黒羽山大雄寺。大雄寺は曹洞宗の禅寺で、黒羽藩主大関家累代の菩提寺になっている。茅葺の総門、禅堂、庫裏、本堂は廻廊で結ばれていて、住職が案内してくれた。また、板絵の十六羅漢図や幽霊図も見せてもらった。幽霊図は住職が美しいと話されたように恐ろしくはなかったが、見る人がどこにいても見ているように見えるのはやはり怖かった。大雄寺は今年七月三十一日に国指定重要文化財になった。
 昼食は具を選んでの二個の御焼定食。朝食が早かっただけに格別においしかった。
 午後は旧浄法寺邸(芭蕉の門人、黒羽藩城代家老浄法寺図書高勝《俳号秋鴉また桃雪》屋敷)跡を見て句会場の黒羽芭蕉の館へ。様々な紅葉、黄葉明かりの下には加藤楸邨揮毫による「山も庭もうごき入るや夏座敷」の句碑が建立されていた。黒羽城址はすぐそばにある。
 句会は第一回が七句出句、十句選(一句特選)。第二回が帰りのバスで三句出句、後日誌上句会。兼題「湯豆腐」をどちらかに出句。 
 快晴で紅葉も見頃の時に実施した鍛練吟行会は多くの句材にも恵まれ、充実したものとなった。大きく真っ赤な入り日を車窓に見ながら帰路に就いた。

 星田一草特選
御焼二個が胃に落ちてゆく小春かな   本倉 裕子
 柴山要作特選
幽霊図に佇てばひしひし堂の冷え    大野 静枝
 松本光子特選
身に入むや幽霊の絵に睨まれて     谷田部シツイ
 秋葉咲女特選
撫でて読む芭蕉の句碑に紅葉散る    星田 一草
 阿部晴江特選
大雄寺萱の大屋根金の紋        鷹羽 克子
 東不二重特選
水音の冬も豊かに雲巌寺        星  揚子
 大野静枝特選
身に入むや幽霊の絵に睨まれて     谷田部シツイ
 中村國司特選
御焼二個が胃に落ちてゆく小春かな   本倉 裕子
 星 揚子特選
本丸を抜け道ひとつ花茶垣       阿部 晴江

 一句抄
うすうすと雲薄々と冬桜        星田 一草
秋天に昼の月置く雲巌寺        秋葉 咲女
日矢受けて羅漢の足の霜光る      阿部 晴江
竜の玉一つ握りて幽霊図        東 不二重
参拝の後ろに木の葉時雨かな      江連 江女
団栗や作務の箒の先転げ        大野 静枝
僧堂にストーブ二基や寝て一畳     熊倉 一彦
雲巌寺肌に初冬の大気かな       佐藤 淑子
色鳥の声高みより芭蕉句碑       柴山 要作
山寺の花の名を問ひ秋闌ける      杉山 和美
大雄寺萱の大屋根金の紋        鷹羽 克子
蝮草実を竹林の落款に         中村 國司
鎮もれる古刹の庭や実南天       中村 早苗
賽銭のことりと落つる小春かな     松本 光子
御焼二個が胃に落ちてゆく小春かな   本倉 裕子
身に入むや幽霊の絵に睨まれて     谷田部シツイ
本堂の天蓋白く秋深し         渡辺 加代
水音の冬も豊かに雲巌寺        星  揚子



平成30年2月号掲載 句会報
    坑道句会須佐神社吟行記  
原  和子

平成30年2月号へ 

 坑道句会は、仁尾正文前主宰が出雲市河下町(旧平田市河下町)の鰐淵鉱山に勤務なされた折に起ち上げられた歴史ある句会です。長年お世話を戴いた小林梨花先生を失って、句会は中断された状態でしたが、安食編集長の肝いりで、梨花先生の代わりのお世話役も出来て一昨年十二月再出発となり、以来隔月で吟行句会が行われています。再興なって嬉しい限りです。
 昨年十二月十一日(月)、須佐神社吟行の日は、予報で日本列島に冬に入って一番の強い寒波が訪れるとされた日の前日でした。これに恐れをなしたというわけではないでしょうが、句会場となる出雲須佐温泉「ゆかり館」の送迎バスで拾い集めてもらった元気の良い出席者は、いつもより十名ほど少ない十六名。須佐川に架かる宮橋を渡って寒風吹き荒ぶ須佐神社の鳥居の前でバスを降りたのは、午前十時二十分でした。
 途中の径々に期待していた山の紅葉は全て終わっていて、冬木立と裸木の山径ばかりで少しがっかりしましたが、バスの中の賑やかな話し声、笑い声に包まれての到着でした。
 須佐神社は、出雲國風土記には「須佐社」とあり、須佐之男命の終焉の地と伝えられています。今迄に幾度も訪れたことのある御社でしたが、それでも来るたびに新しい発見はあるものです。拝殿の前には、二、三日前に降ったと思われる屋根の垂り雪が固まっていました。
 じっとしていられないような冷気、境内を吹き抜ける強い風、カラカラと駈け回る落葉に追い立てられるように境内を一巡りしました。本殿のすぐ裏に聳え立つ千三百年程も経ているという大杉の荘厳さを仰ぎ見ていると、夏には涼しさを満喫させてくれるせせらぎは、今は身を凍らせるような川音、淵の碧さとなって迫ってきます。そんな時、誰かが本殿横の榊の木の一枝に潜む「凍蝶」を見つけました。言葉としては知っている積りでも実物を間近に目にしたのは初めてのことでした。この寒風の中で葉の裏にしっかりとしがみつく凍蝶はとても神聖なもののように愛おしく、皆でぐるりを取り巻いて暫く眺めておりました。
 そして、当日の句会には、凍蝶の句が沢山出されました。この日の吟行で一番心に残ったことは、とても寒かったこと、そこに生き抜く凍蝶に出会えたことでした。

山根 仙花選
特 選

羽固く畳みて潜む冬の蝶    玉 絵
賽沈む塩井冬天うつしをり   比 露
神杉を見上ぐる冬の空青し   淑 子
凍蝶に集ふ女や須佐の宮    洋 子
足元の危ふき道や濡れ落葉   清 子
入 選
礼拝の小脇にはさむ冬帽子   比 露
揃へある木沓の影にある寒さ  彰 彦
神杉の冬の大地を掴み立つ   白 鴉
あめ色の竹の結界冬の宮    玉 絵

安食 彰彦選
特 選

礼拝の小脇にはさむ冬帽子   比 露
神杉の冬の大地を掴み立つ   白 鴉
ただ寒し寒し風音水の音    仙 花
入 選
賽沈む塩井冬天うつしをり   比 露
柿熟す峡の暮らしの余りもの  希 世
凍蝶の神籤とまがふ白さかな  和 子
賽打てば神も寒しと申されし  千都江
千年杉凩抱けば空青し     明 子

三島 玉絵選
特 選

ただ寒し寒し風音水の音    仙 花
神杉の冬の大地を掴み立つ   白 鴉
賽沈む塩井冬天うつしをり   比 露
入 選
凍蝶に集ふ女や須佐の宮    洋 子
揃へある木沓の影にある寒さ  彰 彦
凍蝶の神籤とまがふ白さかな  和 子
賽打てば神も寒しと申されし  千都江
冬天や神馬はぴんと耳を立つ  和 子

荒木千都江選
特 選

賽沈む塩井冬天うつしをり   比 露
神杉の冬の大地を掴み立つ   白 鴉
あめ色の竹の結界冬の宮    玉 絵
入 選
千年杉凩抱けば空青し     明 子
冬日射柏の神紋輝けり     恒 子
神杉の苔の走り根冬の風    絹 子
寒風や杉の実屋根を叩く音   淑 子
神杉のぱりつと乾く空つ風   希 世

久家 希世選
特 選

柏手を打ち咳等を零さずに   彰 彦
塩井の賽銭冬の水揺らし    絹 子
神杉の冬の大地を掴み立つ   白 鴉
入 選
あめ色の竹の結界冬の宮    玉 絵
塵ひとつ許さぬ社枯葉舞ふ   彰 彦
賽打てば神も寒しと申されし  千都江
冬日射柏の神紋輝けり     恒 子
賽沈む塩井冬天うつしをり   比 露

渡部 幸子選
特 選

四つ手網括られてをり冬の川  白 鴉
凍蝶の神籤とまがふ白さかな  和 子
揃へある木沓の影にある寒さ  彰 彦
入 選
神杉の冬の大地を掴み立つ   白 鴉
歓迎板の名前大きく枯木宿   明 子
塵ひとつ許さぬ社枯葉舞ふ   彰 彦
冬天や神馬はぴんと耳を立つ  和 子
凍蝶の結ぶみくじに紛れをり  淑 子

今日の一句 五十音順
千年杉凩抱けば空青し     明 子
柏手を打ち咳等を零さずに   彰 彦
初雪の残るに触れて参拝す   以 佐
凍蝶の神籤とまがふ白さかな  和 子
塩井の賽銭冬の水揺らし    絹 子
柿熟す峡の暮らしの余りもの  希 世
足元の危ふき道や濡れ落葉   清 子
凍蝶のぴくりと動くたなごころ 幸 子
神杉を見上ぐる冬の空青し   淑 子
ただ寒し寒し風音水の音    仙 花
羽固く畳みて潜む冬の蝶    玉 絵
賽打てば神も寒しと申されし  千都江
冬日射柏の神紋輝けり     恒 子
神杉の冬の大地を掴み立つ   白 鴉
賽沈む塩井冬天うつしをり   比 露
凍蝶に集ふ女や須佐の宮    洋 子



平成30年3月号掲載 句会報
     旭川白魚火会忘年句会
淺井ゆうこ

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 十二月九日、旭川白魚火会忘年句会を市内で催した。会場の旅館は見晴らしの良い高台にあり、例年よりも遅い根雪に覆われた旭川の街並みが青空の下に広がる。雪による交通トラブルもなく、札幌から美木子、津矢子、紗和、琴美の四名が参加し、総勢十六名での賑やかな句会となった。各自五句投句。人工の滝を流れ落ちる水のほか動くもののない中庭の雪景色を眺めつつ、絞りに絞って五句を選句。一年の締めくくりとなる集い、いつもと違う会場と顔ぶれに、何とはなしに雰囲気も華やぐ。来年三月に九十歳を迎えられるタカ女先生は、腰掛けた籐の座椅子の上から佳句や評に惜しみなく拍手を下さり、あっという間に時の過ぎる句座となった。ちなみに、最高点句は「あぶりたる目玉の抜けし潤目かな」のタカ女先生の句でした。
 句会の後は、フロアーを替えての宴会。純一さんと純子さんの持参した地元の新酒とともに、季節の料理と新蕎麦を賞味する。夜の庭に細雪が降り出し、「雪の庭を見て一句」という純一さんの号令で一同作句にかかる。音数を指折り数え、酔いにもつれる舌で句を発表。宴もたけなわとなり、恒例のお楽しみアミダくじ。敏美さんが春から秋にかけて採った各種の山菜、美瑛等で撮影し、額装した写真が景品に並ぶ。贈呈にあたる敏美さんに代わり、景品を手にした各人の喜びの表情を、若手のまことさんが手際よくカメラに納める。大いに語らい、楽しむ忘年句会となった。
 当日の各自詠句は、次のとおりです。
返事する猫のしつぽや冬温し      タカ女
凍つる夜は蹼かかへ眠りけり      純 一
裸木の真正直なる姿かな        美木子
寒いとか寒くないとかチョコレート   津矢子
置き忘れのポシェット戻りクリスマス  紗 和
新館と言へど百年煤払ふ        琴 美
考ふる時の頬杖漱石忌         峯 子
冬麗やセカンドライフのほほんと    紀 子
冬籠ねずみの如くりんご食む      さつき
眠る窓眠らぬ窓や冬の月        布佐子
雪掻きの残りは米を研いでから     純 子
朱を極めたちまち消ゆる冬茜      敏 美
きりたんぽ民宿女将の艶話       公 春
一時は生死を離れ年忘         よし生
俳句もてヒトに戻れる日向ぼこ     まこと
日記買ふ二十四節季書き入れる     ゆうこ



平成30年3月号掲載 句会報
     栃木白魚火忘年句会報  
秋葉 咲女

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 師走に入り、歳末たすけあいの募金の呼びかけや若者達で賑わう小春日和の十二月三日(日)恒例の忘年句会が、宇都宮中央生涯学習センターに於て、二十二名の参加のもとに開催されました。
 句会は宇都宮支部長の中村國司さんの司会により進められました。冒頭、星田一草会長の挨拶と一年間の労いのお言葉を頂きました。引き続き、柴山要作幹事長から新春句会の通知と合同句集の原稿募集についての説明があり句会に入りました。
 句会は五句投句、十句選で行ない、披講は中村國司さん、松本光子さんが担当され、熊倉一彦さんにより五位までの入賞者が発表され、賞品が授与されました。最後に星田会長の選評を頂き、記念撮影で和やかなうちに句会が終了しました。
 その後、会場を移し忘年会が行われ、日頃の句作の苦労や、喜びなど話しが尽きないなか、一年間の活動を互いに労いながら解散となりました。
 参加者の当日の一句は次のとおり

山茶花はいつも満開咲き継ぎて   星田 一草
筑波嶺の空のはるけき小春かな   宇賀神尚雄
ぼうたんの冬芽しつかと雲巌寺   柴山 要作
逃げやすき日差しを捉へ銀杏舞ふ  阿部 晴江
この森の小春を抱き師の見舞ひ   今井 佳子
乳牛の下りし牧の小春かな     上松 陽子
白障子ぴたりと閉ざし庫裏の昼   江連 江女
改札に駆け込む息の白きまま    大野 静枝
腺癌の娘の振袖や冬隣       菊池 まゆ
待合の窓の筑波嶺暮早し      熊倉 一彦
短日や片翳りたるビル狭間     小林 久子
おでん鍋二膳の箸のさし向かひ   鷹羽 克子
おだやかに円墳の座し冬の草    田原 桂子
罠にゐて瞳の優しさうな猪     中村 國司
今日からは葉牡丹に替ふ花時計   中村 早苗
小春日の笑ひて動く稚の足     星  揚子
風呂敷に包む菓子折り一葉忌    松本 光子
影連れて雑魚の泳ぎし小春かな   本倉 裕子
赤松の幹赤々と冬日没る      谷田部シツイ
菰巻きの松どつしりと冠木門    渡辺 加代
来し方の埋火のごと夢のごと    和田伊都美
荒縄の縒の緩みや干大根      秋葉 咲女



平成30年3月号掲載 句会報
     旭川白魚火会新年句会
淺井ゆうこ

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 二〇一八年の活動の最初となる一月八日の旭川白魚火会新年句会、所用のあった私は〈欠席〉の便りを出していた。用事の日を一日勘違いしていたことに気づいたのは、年が明けてからだった。松が明けたばかりの市街にはまだ人もまばらで、白い曇り空に正月の雰囲気が残っていた。「皆さんに新年のご挨拶だけでも」とまことさんの後ろに隠れてトーヨーホテルの一室を窺った数分後、私は椅子にかけて、焙じ茶を飲みながら、さつきさんのお姉さんが干したという市田柿をちぎって食べていた。懐紙には米俵を積んだ寶船の絵が描かれていた。
 札幌から佳範さんが参加、総勢十二名での新年句会となった。各自五句投句、五句選句。気分一新の年頭のためか佳句が多く、各々選句に難儀する。ラジオや映画のこぼれ話、選びきれなかった句にも言及したり、わいわいと大いに意見を交わす。鮮やかな紫の着物でいらした早知さんの三句にタカ女先生の特選の星が付き、拍手が送られる。特選句の作者へ、タカ女先生と純一さんより新年句会恒例の短冊の贈呈、一同初写真に納まり、句会は終了。
 フロアを移しての宴会。佳範さんが風邪のためここで退場。奇しくも飛び入り参加の私が司会を引き継ぐ事となった筈だったが、蛸と生野菜のカルパッチョ、馬鈴薯の葛餡かけ、小蕎麦、帆立ご飯と次々並ぶ料理と真摯に向き合ううちに有耶無耶になってしまった。三月に九十歳のお誕生日を迎え会長を退かれるタカ女先生の周りには、かわるがわる小さな人の輪が出来つづけていた。なんとはなしに、ヨーロッパの小さな教会の風景を思った。
 二次会はタカ女先生と有志六名でカラオケボックスへ。純一さんとタカ女先生がマイクを握り「勘太郎月夜唄」を歌う。
 乀影か柳か 勘太郎さんが
  伊那は七谷 糸ひく煙り・・・
 「この歌を聴くとね、十七歳の女学校の頃を思い出すの」と頻りに懐かしそうにおっしゃる頬のあたりが、月明かりを浴びたように淡く光って見えた。
 三月二十一日に「合同句集「鷹の仔」出版記念・タカ女先生卒寿祝賀会」を催す。合同句集は、編集委員のご尽力により近々に校正を控えているとのことです。

 新年句会の各自詠句は、次のとおりです。

年の瀬の時計の遅れ正しけり   タカ女
息を吹きかけ磨く姿見年惜しむ  純 一
音声のタイムラグある初電話   峯 子
誰に見すともなき寒の紅をひく  さつき
真直ぐが好きな性格注連飾    佳 範
賀状来る大文字小文字丸い文字  早 知
自画自賛意気揚々の初句会    敏 美
熱燗や政治経済説くをなご    公 春
天元へ碁石打つ気合天狼星    よし生
人日に言の葉にする俳句かな   まこと
万事是自然法爾や玉箒      ゆうこ
雪の上に大の字北海道が好き   香都子



平成30年3月号掲載 句会報
    栃木白魚火新春俳句大会  
江連 江女

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 平成三十年一月十四日、宇都宮市中央生涯学習センターに於いて、厳寒の中二十七名の参加者で栃木白魚火新春俳句大会が開催されました。
 星田会長より新年のご挨拶があり、又中村國司さんの活躍を称えるお話がありました。
 中村國司さんは昨年の白魚火賞に引き続きみづうみ賞秀作賞を受賞されましたので、皆さんの温かい拍手の中花束贈呈が行われました。次に柴山幹事長より新会員となられた佐藤淑子さんの紹介がありました。
 句会は五句出句で七句選(うち特選一句)、役員・鳥雲同人は十句選(うち特選二句)で行なわれました。句会終了後は総合成績、特選賞の表彰を行い、記念写真を撮り散会となりました。
 選者特選句及び参加者の今日の一句は、次のとおりです。

 星田一草特選
○初護摩や駆け登り来るサッカー部  柴山 要作
○刻々と氷柱の伸ぶる静寂かな    谷田部シツイ

 宇賀神尚雄特選
○寒紅梅ほつこり蕾ほどきけり    小林 久子
○玲瓏と空の抜けたり大旦      和田伊都美

 加茂都紀女特選
○健康が一番と母年迎ふ       杉山 和美
 冬至ゆず一個浮かべて黒田節    中村 國司

 柴山要作特選
○麦三寸畝間の土の匂ひ立つ     星田 一草
 まだありし冬至南瓜を切る力    加茂都紀女

 齋藤都特選
○冬木立ひときは高く法務局     中村 國司
 奉納の大き絵馬背に初写真     谷田部シツイ

 星揚子特選
○九十六才虫歯の父の節料理     石岡ヒロ子
○笊色となりて切干し終へにけり   本倉 裕子

 松本光子特選
○刻々と氷柱の伸ぶる静寂かな    谷田部シツイ
○麦三寸畝間の土の匂ひ立つ     星田 一草

 阿部晴江特選
 日脚伸ぶ夫の床上げ近くなり    杉山 和美
 少年の飛び出してゆく初稽古    加茂都紀女

 秋葉咲女特選
 飛ぶもののみな輝ける初明り    星田 一草
 野の果ての嶺々の耀ふ初景色    星田 一草

 大野静枝特選
 切り傷の治る暇なし年の暮     石岡ヒロ子
 初明り百穴百の思惟仏       星田 一草

 田原桂子特選
○冬木立ひときは高く法務局     中村 國司
○鷹の舞ふ境界線なき那須の空    秋葉 咲女
 中村國司特選
 きつちりと靴揃へある淑気かな   江連 江女
○眺めゐる老いのふたりも初景色   宇賀神尚雄
(○は今日の一句)

今日の一句
去年今年父の手擦の農事録      阿部 晴江
風花や光の翳にうら表        今井 佳子
馬簾舞ふ空清々し出初かな      上松 陽子
数の子や男勝りのひとりつ子     江連 江女
夜勤明け手足を伸ばす初湯かな    大野 静枝
書初の紙をはみ出す四字熟語     加茂都紀女
堂々と主人の構へ飾海老       菊池 まゆ
コテメンドー踏み込強く寒稽古    熊倉 一彦
昼の月冬青空へかくれけり      齋藤  都
遠景の初富士確と日の暮るる     佐藤 淑子
年賀状切手貼り足す八日かな     髙島 文江
校塔に日射あふれてお元日      田原 桂子
運勢は末吉とあり初みくじ      中村 早苗
足着けば跳ぬるシーソー日脚伸ぶ   星  揚子
湛然と風遣り過す蓮の骨       松本 光子
日矢さして臘梅の色動きけり     渡辺 加代



平成30年5月号掲載 句会報
   坑道句会 荒木古川句碑吟行記
森山 暢子

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 おだやかな日差しの二月二十六日、坑道句会に参加するため、一畑電車にのり平田へ向かった。この日の宍道湖は春霞で沢山の蜆舟が出ていた。蜆は薬用にもなると言って、饅や佃煮にもされるが多くは蜆汁にして食べる。
 約四十分後、平田駅に到着し駅前のタクシーを拾い古川先生の句碑のある場所へと向かう。愛宕山公園は平田のほぼ中央に位置する丘陵地にあり、戦国時代は尼子氏、毛利氏が攻防を繰り返した古戦場として知られている。又山頂からは東に鳥取県の大山、西に三瓶山、眼下には築地松に囲まれた散村が広がる出雲平野が眺められる。今は小動物園などもあり市民の憩いの場所となっており、古川句碑もこの一角にある。句碑近く車を降りると樹々はまだ冬の装いながら、犬ふぐり、タンポポが鮮やかに咲いていた。
 古川先生は郵政省にお勤めになりながら「白魚火」誌第一号を発行され、白魚火一筋に生きて来られ、句碑の建立は平成八年である。句会は古川先生が朝夕親しまれた湯谷川を見下ろす宿の二階であり、昼食をはさみ出句(七句)締切りは午後一時だった。披講は荒木千都江さん、生馬明子さんで、選者選は並選十句、特選五句で行われた。予定通りの時間が過ぎたところで、この度「白魚火」賞を受賞された三原白鴉さんに、坑道句会から記念品が渡され、白鴉さんからお礼のご挨拶があった。次の坑道句会での再会を約し解散となった。

日 時 平成三十年二月二十六日(月)
場 所 味彩 さかもと
吟行地 古川句碑周辺
参加者 二十一名

 山根 仙花特選
贈られし子の温もりの春コート   樋野 洋子
句碑の空大きく晴れてこぶしの芽  原  和子
船川に残る掛け出し春の鴨     三原 白鴉
そこにある石に腰かけ梅をみる   荒木千都江
碧天に触れて辛夷の芽の揃ふ    三島 玉絵

 安食 彰彦特選  
日だまりの石の温みに座りけり   牧野 邦子
蒼天の空をゆさぶる竹の秋     樋野久美子
春の鴨水脈を広げて遠ざかる    生馬 明子
波の綺羅散らして戻る蜆舟     西村 松子
木蓮の万の芽吹きや句碑の丘    荒木 悦子

 三島 玉絵特選
句碑の空大きく晴れてこぶしの芽  原  和子
浅春の泥亀太き首もたぐ      牧野 邦子
梅ふふむ絵馬掛台の千羽鶴     三原 白鴉
湯谷川といふ親しき名水の春    西村 松子
水温むひらりと移る鷺一羽     渡部 幸子

 森山 暢子特選
十五歩で渡る大橋山笑ふ      三原 白鴉
二ン月の句碑にまみえし無精髭   安食 彰彦
山道に榾木組みをり春の風     山本 絹子
剪定のたびに庭石現はるる     生馬 明子
公園は淋しきところ冬木の芽    山根 仙花

 西村 松子特選
二ン月の句碑にまみえし無精髭   安食 彰彦
梅寒し遠くで電車過ぎし音     山根 仙花
句碑の空大きく晴れてこぶしの芽  原  和子
碧天に触れて辛夷の芽の揃ふ    三島 玉絵
旅伏嶺の夜もあをあをと猫の恋   森山 暢子

 久家 希世特選
句碑の背の竹林さやぐ風二月    今津  保
曲りたる轍春泥深くして      樋野久美子
はらからの遠くに病めり麦青し   森山 暢子
贈られし子の温もりの春コート   樋野 洋子
山襞の動き出したる芽吹きかな   荒木 悦子

 渡部 幸子特選
波の綺羅散らして戻る蜆舟     西村 松子
句碑の背の竹林さやぐ風二月    今津  保
梅東風や肺の奥まで醤の香     生馬 明子
静寂の池に芽吹きの水鏡      樋野久美子
古川師の本名を知る松の花     原  和子

 一句抄 (氏名の五十音順)
二ン月の句碑にまみえし無精髭   安食 彰彦
木蓮の万の芽吹きや句碑の丘    荒木 悦子
春耕の田はゆつくりと息を吐く   荒木千都江
梅東風や肺の奥まで醤の香     生馬 明子
日溜りに瑠璃の耀ふいぬふぐり   今津  保
句碑の背や笹子頻りに鳴き移る   久家 希世
波の綺羅散らして戻る蜆舟     西村 松子
句碑の辺に鳥鳴く朝あたたかし   原  和子
誰彼と先師のはなし水温む     樋野久美子
贈られし子の温もりの春コート   樋野 洋子
茶柱にほつと一息春の立つ     福間 弘子
蒼天へ辛夷の花芽競ひをり     船木 淑子
日だまりの石の温みに座りけり   牧野 邦子
梅咲くや仮名ばかりなる母の文   三島 玉絵
船川に残る掛け出し春の鴨     三原 白鴉
旅伏嶺の夜もあをあをと猫の恋   森山 暢子
春浅し句碑と話して帰りけり    山根 仙花
オアシスの池に馴染の残り鴨    山根 恒子
山道に榾木組みをり春の風     山本 絹子
芽吹き山チェンソーの音高々と   渡部 清子
落ち合ひてリズムゆかしき春の水  渡部 幸子



平成30年6月号掲載 句会報
       名古屋句会  
檜垣 扁理

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 平成三十年四月一日(日)、五回目の名古屋句会が開かれた。場所は前回同様、秀吉縁の「本陣駅」近くの中村生涯学習センターである。隣には小さな公園があり、桜の樹が十本余り植えられており、例年より開花の早すぎた桜が既に飛花落花の景である。折しも日曜日とあり、十名程の花見客が昼酒の宴を催していた。夜桜でなくとも酒は付物か。前日の奇麗な夜桜とブルームーンを想い起し、そう言えば今日はエイプリルフールなどと思った。名古屋句会の特徴は、先ずは若い人達が少なくないと言う事だろう。今回の参加者も総勢十七名の内、高校生二名、大学生三名、二十代会社員一名で都合若手が六名。全体の三分の一が若者と言う色を添えてくれるのだ。今回も五句持寄りで、五句互選である。今回の披講は、矢張り若手の児嶋君の初披講で若く朗々とした声であった。互選は常にして開けて一驚喫するもので、若い層が渋い句柄を詠んでいたり、その他の中高年(笑)が憧憬の様に若々しい句柄に挑戦していたり、面白いものである。和気藹々とした中、順調に句会は運び、最後に村上尚子先生と渥美絹代先生に、それぞれ丁寧に全員の句の評を戴いた。句会後は、隣の公園で爛漫たる桜の下に勢揃いして、件の宴客の一人にお願いして記念写真を撮った。十本余の桜の内幾本かは、飛花ながら既に蕊降る樹となっていた。

平成三十年四月一日
   第五回名古屋白魚火句会
     於中村生涯学習センター
   一句抄
さへづりや百葉箱にペンキの香    村上 尚子
卒業の一団長き橋渡る        渥美 絹代
永き日や一艘残る船溜り       渥美 尚作
中東の言葉も聞こえ桜かな      安藤  翔
境内の土俵の上に桜散る       伊藤 妙子
ジャズで聞くソーラン節や春の宵   伊藤 達雄
雪形の見ゆる信濃の美術館      井上 科子
風光る紙ひかうきの宙がへり     牛田 大貴
校長の式辞の長し初桜        北川 順子
ポケットにいつかのレシート春深し  児嶋  彬
列島に湖といふ穴鳥帰る       竹中 健人
春光やぱつと散りたるかくれんぼ   野田 美子
飛花二片挟みておきぬ朱印帳     檜垣 扁理
春の旅赤子の握る母の服       山田 翔子
卒業生何度も門を振り返る      山田良太郎
夜桜を少し恐れてをりにけり     弓場 忠義
行きずりに乗りたるリフト春の雲   吉村 道子



平成30年6月号掲載 句会報

 浜松白魚火会
 第二十回(創立三十周年記念)総会・句会

鈴木  誠

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 四月二十一日(土)、十二時三十分より、浜松楽器博物館六階、六十二会議室に於いて「浜松白魚火会第二十回(創立三十周年記念)総会・句会」が出席者一〇三名と来賓に、白岩敏秀主宰、鈴木三都夫白魚火顧問、黒崎治夫浜松白魚火会顧問、三原白鴉編集長補佐をお迎えして開催されました。
 総会は、渥美副会長の司会で始まり、弓場忠義会長の挨拶、来賓の白岩主宰、鈴木顧問、黒崎顧問の挨拶を頂きました。その後、平成二十九年度活動及び決算報告、平成三十年度活動計画及び予算案が満場の拍手で議決されました。役員改選は弓場会長以下前年度と同じ役員が再選されました。
 続いて、各賞の受賞者の紹介と表彰に移り、白岩主宰の祝辞を頂いた後、功労賞として浜松白魚火に長年貢献された上村均顧問と福田勇顧問に表彰状と記念品が贈呈され、白魚火賞の斎藤文子さん、みづうみ賞秀作賞の安澤啓子さん、鳥雲同人となった阿部芙美子さん、早川俊久さんに花束が贈呈されました。受賞者を代表して斎藤文子さんから謝辞が述べられました。
 その後、句会が行われました。時間の関係で今年は互選は行わず、七名の選者に入選十句、特選五句を選んで頂き、阿部芙美子さんにより披講され、特選句には賞品が授与されました。
 句会の後、浜松白魚火創立三十周年の記念として、常葉大学名誉教授竹腰幸夫先生により、「松尾芭蕉『奥の細道』」と題する講演を頂き、連句の形式を意識して書かれたとする鋭い考察を一同興味深く拝聴しました。
 懇親会は、会場をオークラアクトシティホテル浜松の四十五階に移して七十一名出席のもとに行われました。途中、顧問の福田勇さんが丁度翌日が八十八歳の誕生日と言う事で、花束贈呈のサプライズがあり、福田さんには大変びっくりされ、喜んで頂きました。
 また、今年の全国大会開催地の静岡白魚火会小村絹子会長からの吟行案内等の挨拶を戴きました。名古屋からも会員の方々に参加して頂き、檜垣扁理さんよりご挨拶を頂きました。特に名古屋の方々には名古屋白魚火会を立ち上げることを宣言して頂き、大変盛り上がりました。最後は塩野幹事長の中締めで盛況の内にお開きとなりました。
 当日の選者の特選句は、次のとおりです。

福田 勇 選
  特選一位
携帯に今も師の名や晴朗忌      野沢 建代
  特選二位
防人の積みし石垣風光る       中野 元子
  特選三位
竜天に昇りしか夜の胸騒ぎ      井上 科子
  特  選
春燈や花道熱き飛び六方       鈴木けい子
いちりんの都忘れへ師を重ね     村松ヒサ子

野沢建代 選
  特選一位
連翹や飛行機雲のまだ伸ぶる     森  志保
  特選二位
折紙の恐竜動く万愚節        花輪 宏子
  特選三位
春子つむ声を掛け合ふあにおとと   西沢三千代
  特  選
農日誌の醤油の染みや地虫出づ    牧沢 純江
春の日を句帳へ挟み晴朗忌      村上 尚子

渥美絹代 選
  特選一位
遺影いつもほほゑみてをり鳥曇    織田美智子
  特選二位
折紙の恐竜動く万愚節        花輪 宏子
  特選三位
防人の積みし石垣風光る       中野 元子
  特  選
花冷や乗りてひとりの昇降機     織田美智子
腹這ひの赤子真中に雛まつり     鈴木けい子

村上尚子 選
  特選一位
朝刊のなき日白梅よく匂ふ      渥美 絹代
  特選二位
海苔粗朶へしろがねの波寄せにけり  林  浩世
  特選三位
帰る雁にはかに空の暗くなり     榛葉 君江
  特  選
腹這ひの赤子真中に雛まつり     鈴木けい子
春愁の鏡の顔を拭きにけり      鈴木喜久栄

黒崎治夫 選
  特選一位
春愁の鏡の顔を拭きにけり      鈴木喜久栄
  特選二位
切株に鳥のきてゐる涅槃かな     村上 尚子
  特選三位
歳々の白木蓮や正文忌        安澤 啓子
  特  選
海苔粗朶へしろがねの波寄せにけり  林  浩世
朝刊のなき日白梅よく匂ふ      渥美 絹代

鈴木三都夫 選
  特選一位
湖へ声残しゆく帰雁かな       三原 白鴉
  特選二位
お茶が好きおしやべりが好き桜餅   三原 白鴉
  特選三位
正文忌三方が原の土匂ふ渥美 絹代
  特  選
春浅し茶歌舞伎の茶の匂ひ立つ    磯野 陽子
あたたかき砂を褥の防風摘む     小村 絹子

白岩敏秀 選
  特選一位
飛んでなほ歩幅の足りず春の泥    三井欽四郎
  特選二位
竜天に昇りしか夜の胸騒ぎ      井上 科子
  特選三位
引鳥や日の溢れゐるとほたふみ    山田 眞二
  特  選
もう一つ買ひ足してゐる種袋     高井 弘子
春の日を句帳へ挟み晴朗忌      村上 尚子



平成30年7月号掲載 句会報
   栃木白魚火会総会・俳句大会 
松本 光子

平成30年7月号へ 

 平成三十年度栃木白魚火会総会並びに俳句大会が四月十五日(日)宇都宮市中央生涯学習センターで行われた。低気圧の通過による雨催いの中、二十五名の出席のもと星田会長の挨拶に続いて、平成二十九年度の行事報告並びに決算報告、そして平成三十年度の行事予定、予算案等が協議された。また栃木白魚火合同句集第三十八号、栃木白魚火会報第九十五号が配付された。
 総会終了後の句会は五句出句、鳥雲集同人及び役員は十句選(うち特選二句)、互選は七句で行われた。

 星田 一草 特選
辛夷咲く堀に木橋の新しく     田原 桂子
つくしんぼ乳歯の覗く笑顔かな   秋葉 咲女
 加茂都紀女 特選
鬼怒川の光を纏ふ翁草       秋葉 咲女
三日月の形に畳む紙風船      星  揚子
 宇賀神尚雄 特選
花筏すつと伸びして堰に入る    柴山 要作
うつすらと烟る筑波嶺春闌くる   柴山 要作
 柴山 要作 特選
接岸にきしむ桟橋菖蒲の芽     大野 静枝
早蕨のぽきりぽきりと一握     渡辺 加代
 星  揚子 特選
摩利支天古墳丸ごと囀れり     柴山 要作
落柿舎に郵便届く花の昼      星田 一草
 松本 光子 特選
花筏すつと伸びして堰に入る    柴山 要作
歯車の見ゆるからくり長閑なり   星  揚子
 大野 静枝 特選
着信のスマホの震へ山笑ふ     中村 國司
何処までも飛んで行けさう石鹸玉  中村 早苗
 田原 桂子 特選
花時のゆふべ大気の香りけり    佐藤 淑子
象吼えて惜春の情こなみぢん    中村 國司
 中村 國司 特選
ひとひらも散らさぬ花の日和かな  江連 江女
辛夷咲き宙が眩しくなりにけり   松本 光子
 秋葉 咲女 特選
春光の眩しさここにそこここに   石岡ヒロ子
何処までも飛んで行けさう石鹸玉  中村 早苗
 阿部 晴江 特選
連れ立ちて来る郵便夫新社員    星田 一草
犬ふぐりペアで整列一年生     熊倉 一彦
  自選
つくしんぼ乳歯の覗く笑顔かな   秋葉 咲女
一粒の薬ころがる余寒なほ     阿部 晴江
花筏川面の光繁ぎ合ふ       石岡ヒロ子
天を占め地を占め桜散りにけり   今井 佳子
熱気球背のびするかにつくしんぼ  上松 陽子
田んぼ道老人同志春惜しむ     宇賀神尚雄
ひとひらも散らさぬ花の日和かな  江連 江女
接岸にきしむ桟橋菖蒲の芽     大野 静枝
虚子墓に水奉る灌仏会       加茂都紀女
茎立の綾なす浄土妣の畑      菊池 まゆ
杉葉挽く水車の飛沫水温む     熊倉 一彦
園庭の子等待つ赤黄チューリップ  小林 久子
遠山の目醒むる気配鳥雲に     佐藤 淑子
摩利支天古墳丸ごと囀れり     柴山 要作
花曇見えぬ富士指す富士見山    髙島 文江
若葉山日毎膨らむ水の音      鷹羽 克子
辛夷咲く堀に木橋の新しく     田原 桂子
着信のスマホの震へ山笑ふ     中村 國司
何処までも飛んで行けさう石鹸玉  中村 早苗
三日月の形に畳む紙風船      星  揚子
祗王寺の苔にこぼれて紅椿     星田 一草
よべの雨一気に開く梨の花     谷田部シツイ
早蕨のぽきりぽきりと一握     渡辺 加代
蓬餅黄な粉を添へて供へけり    和田伊都美
地虫出づマンホールより人のこゑ  松本 光子



平成30年7月号掲載 句会報

      坑道句会報 第七号

荒木 悦子

平成30年7月号へ 

 晴天に恵まれた五月二十一日(月)、遠くは松江、斐川、平田から電車、バスを乗り継ぎ、お茶の里唐川館に於いて二十四名の参加のもとに賑やかに坑道句会が開催されました。
 句会場に向かう途中には、仁尾正文先生の思い出の鉱山跡地があり、自家用車の人は車を止め、しばらくまた間歩の跡地を探し、先生を偲び合いました。其所を登って行きますとやがて見えて来る、一面の茶摘みを終えた茶畑が見渡せる中にお茶の里唐川館があります。
 借りるに当たっては、人情に温かい人々がわざわざ鍵を持って足を運んでくださり、気持ち良く会場の準備を終え、自由に三々五々と足の向く方へ散らばって吟行に出掛けました。
 吟行を終えられた方々は、若葉風の吹き込む会場で、初めてここを訪れた人も多く、目を見張る景色に笑顔が溢れていました。十二時から昼食を取り、十二時三十分に出句締切り、一時から句会が始まりました。
 当日の結果は以下のとおりです。

 山根 仙花 特選
田水張り天地不動となりにけり   荒木千都江
若葉風小窓を開けて賽を打つ    山本 絹子
風薫るほどよき石に足やすめ    樋野美保子
 安食 彰彦 特選  
茶摘み畑一枚空の青一枚      久家 希世
新緑を抜け来し風を身にまとふ   渡部 幸子
鉱山跡に挽歌のしらべほととぎす  渡部 幸子
 三島 玉絵 特選
青春の色してそよぐ柿若葉     荒木千都江
新緑を抜け来し風を身にまとふ   渡部 幸子
十一鳴く荒ぶる神は酒壺を抱き   西村 松子
 西村 松子 特選
草刈りし匂ひの小みち通りけり   山根 仙花
間歩閉ざし幾年月や山空木     久家 希世
卯の花やいつもどこかに水の音   三原 白鴉
 久家 希世 特選
落し文後へは引けぬ磴半ば     樋野久美子
新緑の山駆け上り駆け下り     三原 白鴉
鉱山跡を慕ひ過りし夏つばめ    福間 弘子
 渡部 幸子特選
みどり濃き深山へ句帳開きたる   西村 松子
万緑を潜り来し水透きとほる    西村 松子
青春の色してそよぐ柿若葉     荒木千都江

 当日の高得点句
九点
老鶯やどこに佇ちても水の音    三島 玉絵
新緑を抜け来し風を身にまとふ   渡部 幸子
八点
廃坑の山肌さらすほととぎす    樋野久美子
七点
十一鳴く荒ぶる神は酒壺を抱き   西村 松子
六点
青春の色してそよぐ柿若葉     荒木千都江
茶摘み畑一枚空の青一枚      久家 希世
老鶯の峡を満たして鳴き交はす   三原 白鴉
卯の花やいつもどこかに水の音   三原 白鴉
落し文後へは引けぬ磴半ば     樋野久美子

 一句抄(氏名の五十音順)
韓銍の神は素戔嗚尊緑さす     安食 彰彦
のほほんと親を越えたる今年竹   荒木 悦子
青春の色してそよぐ柿若葉     荒木千都江
万緑を幾曲りせる路線バス     荒木 友子
茄子トマト二本づつ植ゑ山の畑   生馬 明子
五、六戸を包む青葉や峡の里    今津  保
朝凪の風車を眺め海ながめ     大菅たか子
清らかな川の流れや河鹿笛     落合 武子
茶摘み畑一枚空の青一枚      久家 希世
十一鳴く荒ぶる神は酒壺を抱き   西村 松子
はしやぐかに迎へてくれし時鳥   原  和子
落し文後へは引けぬ磴半ば     樋野久美子
古刹へと続く茶畑風薫る      樋野美保子
荒神の蛇注連の朽ちて緑さす    樋野 洋子
ひつそりと奇巌の凹み夏すみれ   福間 弘子
荒神の古ぶる蛇注連百足虫出づ   船木 淑子
さまざまの緑ありけり峡五月    牧野 邦子
老鶯やどこに佇ちても水の音    三島 玉絵
杜鵑鳴いて突き刺す峡の空     三原 白鴉
鵙鳴くや水音峡を貫けり      山根 仙花
小満や水平線の際立てり      山根 恒子
若葉風小窓を開けて賽を打つ    山本 絹子
遠き日と変はらぬ小川夏燕     渡部 清子
渓流に太古のこだま河鹿鳴く    渡部 幸子



平成30年8月号掲載 句会報
     静岡白魚火 総会記 
横田じゅんこ

平成30年8月号へ 

 今年の桜は、全国的に例年にない早さで楽しめたように思われます。
 そんな春先の好天で、お茶所牧之原の一番茶の収穫作業も一段落した五月二十日に、平成三十年度静岡白魚火会総会が、鳥雲同人の檜林弘一氏をお迎えし、会員三十二名の出席で開催されました。

一 総 会
 1 平成二十九年度事業報告及び決算報告
 2 平成三十年度の行事計画
   平成三十年度県俳人協会俳句大会の連絡及び投句のお願い
 3 平成三十年度白魚火全国大会開催地として、行事部とともに協力態勢の布陣確認
   1、2、3については承認されました。
 4 檜林弘一氏鳥雲同人昇格お祝い並びに檜林弘一氏の謝辞

二 俳句大会
 相澤幹事長の司会、進行により和やかにも緊張感あり、活気ありの俳句会になりました。事前投句百二十句の中から、鈴木名誉会長選、檜林弘一氏選、鳥雲同人選、互選のそれぞれ優秀作品が選出されました。

 当日の鈴木名誉会長作品三句
花びらに花びら紛れ花の散る
余花残花花の命を止め惜しむ
緞帳を上げし万朶の桜かな

 檜林弘一氏作品三句
利かん気を空へ向けたる辛夷の芽
佐保姫と道草をせる川原かな
踏青や風の匂ひのする方へ

 鈴木名誉会長選 特選五句
芽吹く音聞こえて来さう山毛欅林   坂下 昇子
安らけし植田を満たす水の音     山田ヨシコ
嬰児の小さな欠伸木々芽吹く     落合 勝子
初桜見て約束を思ひ出す       横田じゅんこ
片足で櫂操りて若布刈舟       田部井いつ子

 檜林弘一氏選 特選五句
初蝶の翅に色まだ乗り切らず     小村 絹子
まなざしはいつもまつすぐ雛人形   辻 すみよ
初桜見て約束を思ひ出す       横田じゅんこ
裾分けをしたき分まで南瓜蒔く    大塚 澄江
失物の財布の届く春うらら      池谷伊沙子

 名誉会長の特選五句に先生の色紙、檜林弘一氏特選五句に弘一氏の短冊が授与されました。

 鈴木名誉会長の講評
 例題として先人の句を紹介しながら丁寧に特選句を一句づつ解説して頂きました。
さらに、
・選者それぞれの選は異なるが、見たままをどう感じたか、それをどう詠むか
・俳句は座の文芸であり、リズムが大切
・季題の見つけ方とその斡旋
・日常を只ごとにすることなく詠む力を養う
・誤字・脱字・かなづかい・文法のミスなど間違いがなかった
 選外にもよい句がたくさんあったと会員の日頃の努力を褒められました。

 鳥雲同人選
  桧林ひろ子選
木漏れ日はスポットライト桜散る   小村 絹子
鶯のすぐそこにゐる日和かな     大石登美恵
菜の花や一輌電車浮いて来る     横田じゅんこ

  坂下昇子選
まどかなる月の昇りしさくらかな   横田 茂世
花の雲出雲路へ発つ一番機      山本 康恵
安らけし植田を満たす水の音     山田ヨシコ

  横田じゅんこ選
碧き海白き燈台藪椿         大川原よし子
初蝶の翅に色まだ乗り切らず     小村 絹子
ぼんぼりに夜桜となる灯を点す    本杉 郁代

  辻すみよ選
もう少しもう一鍬に春満月      池谷伊沙子
砂の上を砂走りゆく春疾風      大石登美恵
ぼんぼりに夜桜となる灯を点す    本杉 郁代

  本杉郁代選
片足で櫂操りて若布刈舟       田部井いつ子
安らけし植田を満たす水の音     山田ヨシコ
花びらが花びら誘ひ筏組む      柴田まさ江

  小村絹子選
花の下デイサービスの車椅子     本杉 郁代
背の児を紫雲英の中に下しけり    山田ヨシコ
百代の過客いつぽん桜かな      梶山 憲子

 鳥雲同人六名の特選三句には賞品が渡されました。
 締め括りとして、名誉会長より十月の白魚火全国大会への協力要請を再確認されました。
 記念撮影のあと滞りなく閉会いたしました。



平成30年8月号掲載 句会報

    函館俳句大会入賞作品紹介

広瀬むつき

平成30年8月号へ 

 平成三十年度「函館俳句大会」(函館俳句協会主催)が、五月二十七日、ホテルリソル函館に於て開催されました。
 函館白魚火会からも当日たくさんの方が参加しましたが、総会に次ぐ俳句大会に於て次の方々が入賞されましたのでご紹介致します。
 入賞作品及び入賞者
多喜二忌や金子兜太も星となり   今井 星女
厨窓大きく開けてみどりの日    富田 倫代
春の雨子のてのひらの金平糖    高山 京子
母と居る時間は短し春の駒     及能さつき
揚雲雀一人ぼつちの滑り台     山越ケイ子
書初や一気に「平和」と大書せり  西川 玲子
 大変優秀な成績で、会員一同大いに喜び合い意を強くした一日でした。


平成30年8月号掲載 句会報
   群馬白魚火会総会並びに句会 
竹内 芳子

平成30年8月号へ 

 五月十八日、午後一時より、中之条町ツインプラザに於て、二十四名の参加者にて、平成三十年度の総会並びに句会が開催されました。
 町田宏副会長の司会により開会、篠原庄治会長より挨拶がありました。
 前年度の行事報告、会計報告つづいて、今年度の行事計画等について協議がなされて、異議なく総会が終了しました。
 次に、荒井孝子副会長の進行により、三句投句、五句選で、句会が開催されました。
 代表者選は、篠原会長、鳥雲同人の関口都亦絵さん、金井秀穂さん、荒井孝子さんの四名の方に、特選一位を選んでいただきました。
 披講は、竹内芳子。
 最後に、金井秀穂さんの講評を拝聴し、句会を終了しました。
 特選句
  篠原庄治特選
真つ青な空にまつすぐ松の芯    鈴木百合子

  関口都亦絵特選
鴨引いて流れの迅し暴れ川     福島ふさ子

  金井秀穂特選
あめんぼの足をはみだす潦     鈴木百合子

  荒井孝子特選
空に近い順にはじまる棚田掻き   水出もとめ

 当日の一句(氏名五十音順)
八ツ場ダム堰堤越えし若葉風    青柳 一誠
隠れ沼姿現す走り梅雨       天野 幸尖
霧抜けて霧に呑まるる夏燕     荒井 孝子
三日ほど農事離れて春の旅     岩﨑 昌子
新樹光昼のチャイムのこぼれ来し  荻原 富江
影もたぬ歩き神つれ青き踏む    奥木 温子
朝焼に染まる一番列車かな     加藤 葉子
雨蛙一啼き二啼きみんな啼き    金井 秀穂
里川の葦の葉隠れ残り鴨      剱持 妙子
御手洗に浮びし小さき花筏     篠原 庄治
卯の花や耳の奥からわらべ唄    清水 孝を
石仏の埃を流す緑雨かな      清水 春代
あめんぼの足をはみだす潦     鈴木百合子
五月雨るる飛騨路は異国情緒なり  関 仙治郎
園児みな太陽が好きげんげ摘む   関口都亦絵
アカシアの花と戯れ下校の子    関本都留子
相席の瞳くつきり聖五月      仙田美名代
万緑や郵便バイク農道を      竹渕 秋生
鴨引いて流れの迅し暴れ川     福島ふさ子
青簾縫針すべらす母の髪      町田  宏
空に近い順にはじまる棚田掻き   水出もとめ
幸せの色を誇りに芝桜       宮﨑鳳仙花
鶯の声の一と日や畑を打つ     森田 竹男
水牢の跡とは知らず水すまし    竹内 芳子



平成30年8月号掲載 句会報

 第五回栃木・東京白魚火合同句会報告

萩原 一志

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 六月三日(日)に第五回栃木・東京白魚火合同句会を開催した。平成二十八年七月より実施し、巣鴨銀座(東京)、日光田母沢御用邸(栃木)、府中市郷土の森博物館(東京)、大谷石体験館(栃木)に続く第五回目は東京調布市にある深大寺と隣接する神代植物公園で行われ、栃木より十名、東京より十一名の合計二十一名の参加になった。京王線調布駅改札口に十時に集合し、路線バスにて深大寺に向かった。風薫る深大寺の山門を潜ると、境内には夏木立が美しい中、菩提樹そして泰山木の大きな花が先ず目に付いた。本堂隣には無患子の木の実を見つけた。多分、昨年の実がまだ残っているのであろうということであった。境内を散策していると突然、護摩祈願の太鼓が鳴り響いた。寺澤朝子先生によればこのような太鼓のことを「法鼓(ほっく)」と言うそうである。境内の釈迦堂には昨年九月十五日付で国宝に指定された銅造釈迦如来倚像の白鳳仏がある。又、深大寺近くに居を構えた中村草田男の句碑「万緑の中や吾子の歯生え初むる」は、釈迦堂手前の虚子胸像の隣に建っている。又、高浜虚子の句碑には「遠山に日の当りたる枯野かな」が刻まれている。虚子は調布に住んでいたことがあって、「遠山」は深大寺の丘という説もあるという。本堂の裏手の開山堂の傍に波郷・麥丘人の句碑、その奥に中西悟堂の胸像が建てられている。波郷句碑は代表句の「吹き起こる秋風鶴を歩ましむ」、波郷の弟子の星野麥丘人の句碑は「草や木や十一月の深大寺」である。深大寺そば処で早めに昼食をとり、神代植物公園を散策した後、十三時から十六時まで公園内植物会館二階小集会室にて句会を開催した。投句は五句、選句は七句(内一句特選)で行った。後述の通り、深大寺及び神代植物園の素晴らしい俳句が作られた。閉会後再びバスで調布に戻り、調布駅隣の中華料理屋での懇親会となった。当日の反省会と次回の再会を約束して楽しい宴となった。

  寺澤朝子選
武蔵野の空押し上ぐる夏木立      阿部 晴江
菩提樹の花のこぼるる深大寺      寺田佳代子
薔薇園に鐘鳴り渡る真昼時       小嶋都志子
寺涼し水を豊かに巡らして       星  揚子
菩薩像へ日の斑を散らす靑楓      星田 一草
石段を追はれて登る蜥蜴かな      寺田佳代子
深大寺緑蔭に買ふ焼だんご       鎗田さやか

  星田一草選
武蔵野の風へ噴水高くあり       萩原 一志
微笑んでおはす羅漢や若葉風      阿部 晴江
菩提樹の花のこぼるる深大寺      寺田佳代子
護摩太鼓ひびく泰山木の花       松本 光子
石段を追はれて登る蜥蜴かな      寺田佳代子
炎昼や太鼓おどろに護摩焚ける     大嶋惠美子
万緑を来て万緑の碑にまみゆ      松本 光子

  一句抄
朽ちて散る泰山木をかなしめり     寺澤 朝子
万緑を響もす太鼓護摩祈願       星田 一草
武蔵野の空押し上ぐる夏木立      阿部 晴江
蕎麦猪口に六月の風深大寺       上松 陽子
湧水や魚影広がる薄暑かな       田所 ハル
法鼓音の境内響く日の盛り       杉山 和美
深大寺蕎麦に行列風涼し        中村 國司
木洩れ日や池の底へと緑さす      中村 早苗
寺涼し水を豊かに巡らして       星  揚子
護摩太鼓ひびく泰山木の花       松本 光子
小さき手をすすぐ閼伽堂雪の下     谷田部シツイ
炎昼や法鼓おどろに護摩焚ける     大嶋惠美子
杜鵑花鉢大名のごと勢揃ひ       河島 美苑
薔薇園に鐘鳴り渡る真昼時       小嶋都志子
灯にほのと白鳳仏の笑み涼し      寺田佳代子
重き音して水車回りぬ靑楓       富岡のり子
武蔵野の風へ噴水高くあり       萩原 一志
勤行の太鼓の連打風薫る        萩原みどり
閼伽堂の水とくとくと苔青し      橋本 晶子
虚子像へなんぢやもんぢやの茂りかな  原 美香子
深大寺緑蔭に買ふ焼だんご       鎗田さやか



平成30年9月号掲載 句会報
    坑道句会(七月例会)報 
三原 白鴉

平成30年9月号へ 

 奇数月に開催している坑道句会の七月例会を同月二十三日(月)、出雲市河下港の旅館中屋を会場に開催した。坑道句会は、吟行句会を原則にしているが、今回は島根半島の船遊びと島根半島十六島漁港にある恵比寿神社の例祭に参列し、句会を行った。
 恵比寿神社の祭礼は、漁民の航海の安全と豊漁を祈願するもので、その日一日は船を出さない決まりとされていることから、船遊びは前週の七月十八日に行った。船遊びに参加したのは十二名。午前九時過ぎ十六島漁港岸壁に集合した一行は、白魚火会員の樋野タカ子さん一家経営の遊覧漁船「忠栄丸」に乗船し、十六島漁港から雲一つない微風の日本海へと出航した。コースは、港を出て約二時間をかけて、島根半島沿いに西に向かい、黄泉への入口と言われる猪目洞窟、北前船の寄港地鷺浦、東洋一を誇る白亜の日御碕灯台、海猫の繁殖地経島と巡り、反転して沖合に向け進路を取り、十六島漁港へと帰着するものである。海上は、三十数度の猛暑を感じさせない程吹く風は涼しく、参加者は、普段見ることのできない海上からの岩場の続く半島の景色や丁度通りかかった沖合を行く四本マストの帆船、海上を掠め飛ぶ飛魚、経島に近づくにつれ餌を求めて船を取り囲むように数を増してゆく海猫などに時間も暑さも忘れて楽しんだ。
 句会当日の恵比寿神社祭礼は、十六島漁港西端にある船揚げ場横の二尺四方ほどの小さなお社に烏帽子、狩衣姿の正装の禰宜、氏子の漁民や港湾工事の関係者などが参集して行われた。この日は、熊谷市で四十一・一度という高気温日本記録の更新された日であり、炎天の下、テントが張られていたとは言え全員汗塗れの祭礼となったが、白魚火会員も最後まで参列し、祈念の後御神酒を戴いて辞した。
 祭礼の後に予定していた二十六基の大風車の回る風車公園への吟行は暑さの為中止とし、一キロほど離れた句会場の中屋に移り、投句(五句)を終えた後、ゆっくりと昼食を摂り、午後一時から句会が開催された。折からの猛暑に体調を考慮し、参加を見合わせた会員もあり、当日の参加者は二十名といつもと比べ少し寂しいものとなったが、句会は佳句が沢山提出され、充実した句会となった。
 当日の選者は、安食彰彦、三島玉絵、生馬明子、渡部幸子の四氏、披講は、荒木千都江、渡部美知子の二氏で、選者は特選三句、入選十句、一般七句選で行われ、披講の後各選者から特選句について講評が行われ、午後三時半句会を終了した。
 当日の選者特選句、高得点句、参加者の当日の一句は、以下のとおりである。

 安食 彰彦 特選  
砂浜をだまつて歩く日傘かな    荒木千都江
飛魚の飛んで水平線目指す     三原 白鴉
鰡跳んで水輪の上にまた水輪    川谷 文江

 三島 玉絵 特選
拍手を打てば涼風生まれけり    荒木 悦子
漁を継ぐ青年二人日焼けして    生馬 明子
何役もこなす神主汗しとど     渡部美知子

 生馬 明子 特選
遊船の舳先一等席の風       牧野 邦子
海の紺浜昼顔の咲き満ちて     福間 弘子
灼けてゐし鬼の瓦のかがやけり   安食 彰彦

 渡部 幸子 特選
遊船の舳先一等席の風       牧野 邦子
潮の香をはじき返して波止灼くる  渡部美知子
磯蟹の岩に這ひ入る土用波     福間 弘子

当日の高得点句
  九点
日を弾き日を呑み込んで夏の海   荒木千都江
  七点
潮の香をはじき返して波止灼くる  渡部美知子
  六点
漁を継ぐ青年二人日焼けして    生馬 明子
  五点
拍手を打てば涼風生まれけり    荒木 悦子
遊船を見送る朝や無事祈る     樋野タカ子
祢宜の打つ鼕の音暑気を払ひけり  三原 白鴉

 一句抄(氏名の五十音順)
灼けてゐし鬼の瓦のかがやけり   安食 彰彦
拍手を打てば涼風生まれけり    荒木 悦子
日を弾き日を呑み込んで夏の海   荒木千都江
漁を継ぐ青年二人日焼けして    生馬 明子
夏帽子押さへて見上ぐる風車かな  今津  保
風車音聞きつつ眺む夏の海     落合 武子
鰡跳んで水輪の上にまた水輪    川谷 文江
紺碧の波おだやかに夏の浜     小林 永雄
祀る戸をしづかに閉ぢて祭終ふ   原  和子
日の盛り延命水を持ち歩く     樋野久美子
海よりの涼風うれし恵比須祭    樋野タカ子
海の宿泳ぎの子らを下に見し    樋野 洋子
磯蟹の岩に這ひ入る土用波     福間 弘子
遊船の舳先一等席の風       牧野 邦子
四囲に立つ笹竹乾く恵比須祭    三島 玉絵
飛魚の飛んで水平線目指す     三原 白鴉
餌撒けば彼方の海猫や青嵐     山根 恒子
空と海境界なくす夏霞       渡部 清子
人生の憂さを流せし土用波     渡部 幸子
船神事終はるや暑さかたまり来   渡部美知子



平成30年9月号掲載 句会報

 平成三十年度「浜松白魚火会」吟行記

坂田 吉康

平成30年9月号へ 

 六月十七日(日)。浜松白魚火会の年間行事の一つである、吟行句会を静岡で行った。今年の全国大会の開催地が静岡市と云うこともあってか、予想を上回って七十一名の参加者があった。
 二台の貸し切りバスにて浜松を出発、吟行地である静岡浅間神社へ向かった。三月の下見の際に祈願した御利益か絶好の吟行日和となった。(前日までの数日は雨、殊に翌日の午前中は大雨であった。)
 神社の境内は四万五千平方メートル。文化元年(一八〇四年)から六十余年の歳月をかけて建築された社殿群。内二十六棟が国の重要文化財に指定されている。(参拝の栞より)
 浅間神社に着いた十時には既に多くの参拝客で賑っていた。
 当初は有料駐車場を利用する予定であったが、神社側のご配慮で一般の参拝客の駐車場とは別の場所を提供していただいた。
 到着の十時からバスの出発の十一時二十分までが自由時間。
 境内にある御朱印所の七か所の神社を巡る者、錦鯉が群れる池を見ながらベンチで作句に没頭する者、木陰の石段に腰をかけ弁当をとる者。其々の楽しみ方で有意義な時間を過ごした。
 もう一つの吟行場所は、浅間神社から徒歩で十分程の駿府城公園。徳川家康が将軍職を退き大御所時代をこの城で過ごした。中堀沿いの景色、発掘調査中の石垣等、句材には事欠かない公園である。
 場所を移して「もくせい会館」にて句会。現地での合流者を含め七十四名の参加。二句出句、投句締切十二時四十分。選句用の句稿作成・コピー等、順調に準備が進んだ。
 十三時三十分より句会。二句互選から始まり休憩を挟んで参加者全員分の互選の披講、続いて選者選の特選句・入選句の披講・講評、高得点句及び特選句の表彰等、予定通り十六時に句会終了。
 浜松白魚火会では、数年前からの慣例で会員全体の吟行会は各グループ毎に交替で幹事役を務める。幹事は、吟行地及び句会場の選定、バスの手配、参加者の集計、会計、句会の進行等々、会の運営の全てを委ねられる。
 私が所属する初生グループは初めての経験であったが、皆さまのご協力を得て何とか役目を果たす事が出来てほっとしている。梅雨の最中にも拘らず好天に恵まれた幸運に感謝。

 顧問 黒崎治夫先生選 特選五句
涼風の抜けゆくお宮参りかな     林  浩世
池の面に結葉揺るるひとところ    髙田 絹子
御朱印を押す黒日傘傾むけて     斎藤 文子
富士山に雲父の日のバス走る     村上 尚子
かきつばた昼の水音ばかりなり    佐藤 升子

 村上尚子先生選 特選三句
宮参りのややこ良く寝る麦の秋    高井 弘子
梅雨晴聞大きく鯉の跳ねにけり    阿部芙美子
四阿の椅子にハンカチ拡げけり    高井のり子

 渥美絹代先生選 特選三句
宮参りのややこ良く寝る麦の秋    高井 弘子
神域に浜木綿の香のひとところ    髙田 絹子
木之花咲耶姫やや児に緑さしにけり  高橋とし子

 野沢建代先生選 特選三句
薫風の中の初子の深眠り       牧沢 純江
御朱印を押す黒日傘傾むけて     斎藤 文子
拍手は大きく強く雲の峰       佐藤陸前子
 
  佐藤升子先生選 特選三句
宮聳ゆ千古の杜の風涼し       佐藤陸前子
総門を出て風鈴の鳴つてをり     渥美 絹代
涼風の抜けゆくお宮参りかな     林  浩世
(各先生方の入選十句の記載は略す)

 互選高得点句 五句
神域を離れてよりの暑さかな     村上 尚子
御朱印を押す黒日傘傾むけて     斎藤 文子
ゆつくりと物言ふ巫子の目の涼し   鈴木けい子
薫風の中の初子の深眠り       牧沢 純江
百段を登る一歩に青葉風       高田 茂子



平成30年9月号掲載 句会報
   平成三十年 実桜総会・吟行会 
服部 若葉

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 北海道で一番良い季節に石北・室蘭・函館本線を乗り継いで苫小牧駅に集合。総勢二十三名で実桜総会・吟行会が行われた。

五月二十九日(火)
 北見一名、旭川三名、札幌八名を出迎えた。早速苫小牧を一望できる緑ケ丘公園の展望台に向かい、東西に細長く太平洋に港を開き、樽前山を背に緑豊かな工業都市を見て貰った。
 遠汽笛海霧を纏ひし港町      野歩女
 この先は太平洋や夏の霧      喜 代
 押し寄せてくる山やまの若緑    香都子
 北西に樽前山の初夏の峰      徳 充
 次の吟行地は亀や鯉のいる「金太郎の池」。ウォーキングをする人、ボートに乗る人を眺めながら自由散策。
 薫風や亀の陣取る日向石      津矢子
 ゆつくりと泳ぐ緋鯉の太鼓腹    健 子
 葉桜の息に触れたる旅一日     数 方
 見渡せば青葉の真中に立ちにけり  若 葉
 更衣心配性の旅鞄         すみれ
 雨蛙思ひ思ひの散策路       あき女
 夏の池ゆるりと動く主の居て    悦 子
 風薫る池の安らぐ深呼吸      真 澄
 十七才ボート漕ぐたび笑ひ声    妙 子
 初孫と遊びし池の緋鯉かな     哲 子
 心配した雨の予報も外れ、若葉青葉の中を巡ることが出来た。
 駅横のココトマ句会場にて五句の句会、七句選で行われた。
 選句終了後、金田野歩女さん・三浦香都子さんに講評をして頂いた。
 句会が終わりホテルに戻って、十九時から夕食会。金田野歩女さんの乾杯で始まり、地産の料理をゆっくりと味わい、久しぶりの再会に話は尽きず、楽しいひとときであった。総会では札幌の新会員の紹介、苫小牧の豆の木句会の新会員の紹介があり、拍手で迎えた。また各地の地道ではあるが、それぞれの前向きな活動が発表された。

五月三十日(水)
 朝食が予定より早まり吟行会も早めにスタート。
 二日目も天候の崩れは無く、原始の森の北大研究林を散策。
 虹鱒のライズ、群生する黄菖蒲、鳥の囀り、生き生きとした森の中を吟行し、それぞれに句材を拾い秀句が生まれた。
 苔の花朝日浴びたる水の綺羅   野歩女
 池の端を過る一瞬黒揚羽     美木子
 飛び石に踏み出す一歩九輪草   琴 美
 染まりたる色なり香なり森若葉  香都子
 夏シャツの背筋正しき七十代   津矢子
 五月晴三辻四辻の杣の道     節 子
 空深くまで日を返す桷の花    数 方
 沢清水鹿の足跡鹿の糞      早 知
 露涼し銀の粒々輝けり      純 子
 緑陰に映す水面や吾の影     紗 和
 葉裏にも恋のでで虫動かざり   キヌ子
 万緑や全て名の付く研究林    みつい
 雨蛙身のたけ三度飛び跳ねる   いずみ
 二日目は奥野津矢子さん、西田美木子さんから感銘句の講評を頂く。
 総会・吟行会と目まぐるしく動き回った二日間であり、また最後の昼食会の時も惜しんで句に対しての寸評や疑問質問が飛び交っていた実桜・吟行会であった。
 北見、旭川、札幌の皆さんのご協力を頂き無事終了することが出来、苫小牧一同心より感謝申し上げます。



平成30年10月号掲載 句会報

     平成三十年度栃木白魚火
      第一回鍛錬吟行句会報

柴山 要作

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 七月十五日、栃木白魚火第一回鍛錬吟行句会が、二十一名の参加のもと栃木市で行なわれた。
 当日は貸切りのマイクロバスで先ず大神神社を訪れた。延喜式内下野一之宮で、大和三輪山の大三輪大神を勧請したものと言われ、下野惣社とも呼ばれている。
 本神社の南面一郭を「室の八嶋」と言い、古来から歌枕の地として有名で、芭蕉も奥の細道の途次訪れ、「糸遊に結びつきたる柳哉」の句を残している。
 当日は夏越の祓の茅の輪を外している場に遭遇し、思わぬ句材を得ることが出来た。
 次いで栃木市の中心部に向かい、塚田歴史伝説館を見学、遊覧船に乗船した。塚田家は江戸後期から木材回漕問屋を営んできた豪商で、長い黒塀や八棟もの土蔵が邸内にあり、栃木の歴史や祭りなどを紹介している。遊覧船は「蔵の街遊覧船」の名の下に、巴波川を約二十分、船頭の巧みな竿捌きで往復するものである。朝のうちは曇っていたが市内中心部に入る頃からは炎暑となり、菅笠を被っての乗船は、寄り来る鯉に餌をやりながら、暑さを忘れる一時となった。
 最後は市の北部の嘉右衛門町伝統的建造物保存地区を散策した。この界隈は旧例幣使街道に沿って、見世蔵や土蔵などが多数残っており、歴史的風致をいまに伝えている。二百三十年も続く味噌蔵もあり、豆腐田楽や里芋田楽に舌鼓を打った。
 句会は栃木公民館で昼食後、十句出句、十五句選で行なった。初めての十句出句であったが、全員予定の時間までに出句を終え、披講も時間内に終了できた。これは猛暑の中、参加者がそれぞれ懸命に句作に励み、協力しあって行動した賜であり、今後の鍛錬吟行句会の試金石になったような気がする。

 星田一草 特選
油伝の屋号の太く夏障子      秋葉 咲女
道標べ兼ぬる庚申塔灼くる     柴山 要作
  加茂都紀女 特選
汗拭ひつつ船頭の竿さばき     星  揚子
大胆に縄切り茅の輪崩しけり    星  揚子
  齋藤都 特選
巴波川の風引き寄せて舟遊び    江連 江女
室の八嶋つなぐ小流れ水すまし   大野 静枝
  松本光子 特選 
黒揚羽川越ゆる時影持たず     加茂都紀女
朝曇り立てかけ仕舞ふ竹箒     江連 江女
  秋葉咲女 特選
黒揚羽川越ゆる時影持たず     加茂都紀女
竹林の寸も動かぬ溽暑かな     星田 一草
  阿部晴江 特選
室の八嶋のかくも豆粒青蛙     中村 國司
水琴窟にしばし暑さを忘れけり   松本 光子
  大野静枝 特選
石灼くる嘉右衛門町の道標     星田 一草
日盛りや味噌田楽の匂来て     杉山 和美
  中村國司 特選
すれ違ふ舟の近さや川蜻蛉     上松 陽子
船遊び船頭歌で終りけり      松本 光子
  柴山要作 特選
声太き茅の輪外しの頭かな     中村 國司
鯉の背のぬるり炎天翻す      秋葉 咲女

 一句抄
神苑の昼なほ暗し藪みようが    大野 静枝
油伝の屋号の太く夏障子      秋葉 咲女
黒揚羽川越ゆる時影持たず     加茂都紀女
炎昼を来て蔵の風もらひけり    江連 江女
遊船や船頭まかせ風まかせ     和田伊都美
そり尖り青苔むすぶ芭蕉句碑    佐藤 淑子
橋映し人も映せし夏の川      齋藤  都
ハイテクの人形芝居蔵涼し     鷹羽 克子
草刈つて水の匂ひの八嶋かな    髙島 文江
片かげり求めてゆきし老舗かな   渡辺 加代
緑蔭の二碑俳聖と軍神と      熊倉 一彦
竹林の寸も動かぬ溽暑かな     星田 一草
大胆に縄切り茅の輪崩しけり    星  揚子
豪商の庭のどくだみよく匂ふ    中村 國司
船頭の声のびやかに舟遊び     中村 早苗
日盛りや味噌田楽の匂来て     杉山 和美
すれ違ふ舟の近さや川蜻蛉     上松 陽子
芭蕉句碑文字に染み入る苔の花   菊池 まゆ
切絵めく蔵の並びや夏柳      松本 光子
なぞり読む芭蕉の句碑や蝉しぐれ  阿部 晴江
道標べ兼ぬる庚申塔灼くる     柴山 要作



平成30年10月号掲載 句会報
      佐賀白魚火鍛練会 
田久保 峰香

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 佐賀白魚火会では、六月二十四日(日)から二十五日(月)一泊二日の鍛練会を実施致しました。白岩敏秀主宰、村上尚子先生、宇都宮から加茂都紀女さん、出雲市から編集長補佐の三原白鴉さん他七名、広島から渡邉春枝さん他六名、地元佐賀からは十九名の総勢三十七名での鍛練会となりました。
 一日目は十一時五十分唐津駅から早速バスに乗り一路最初の吟行地、豊臣秀吉が築城した「名護屋城址」へ。一時間三十分程の吟行で次の吟行地は、城址から十分程の「波戸岬」へ。ここは、玄海灘が一望にひらけ、当日はおだやかな海でした。栄螺の壺焼の出店もあり、壺焼の匂いに後ろ髪ひかれながらバスに乗り、「大望閣」に到着、早速受付と一人三句出句してもらい四時より句会。そして、夜は和気あいあいの楽しい懇親会となりました。
 二日目は、八時三十分から全国的にも有名な「呼子朝市」と、江戸時代鯨組主として巨万の富を築いた「中尾家屋敷」の吟行。その後、紅の松原、唐津湾を観て、昼食の「おさかな村」へ、皆さんとはここでのお別れとなり二日間の鍛練会は無事終了することができました。

 白岩 敏秀主宰 特選
青田見て海見て築肥線の旅     三原 白鴉
夏蝶や漁船は沖へ舵を取る     村上 尚子
城あとの旗竿石に日向水      稗田 秋美
   入選
あぢさゐや三畳ほどの籠り堂    村上 尚子
片隅に扇風機置く登り窯      牧野 邦子
本丸の礎石平らに風薫る      大石ひろ女
くさび跡残る城垣梅雨晴れ間    鳥越 千波
万緑を来て本丸の天守台      大石ひろ女
馬場跡のいまも真つ直ぐ四十雀   谷山 瑞枝
緑陰に溶け込む城井のぞきけり   稗田 秋美
青葉風句帳に付くる丸印      金原 敬子
緑蔭に来て風音を聞き分くる    谷山 瑞枝
百丈の瀧音五体震はせり      三原 白鴉
玄海の岩礁粗き夏の蝶       大隈ひろみ
ひろびろと本丸の草刈つてあり   小浜史都女

 村上 尚子 特選
青田見て海見て築肥線の旅     三原 白鴉
石垣の崩れ青柿すずなりに     生馬 明子
五月晴遠くに見ゆる壱岐対馬    吉原絵美子
   入選
玄海の藍より青き夏の空      渡邉 春枝
くれなゐの病葉拾ふ三の丸     髙添すみれ
緑蔭に来て風音を聞き分くる    谷山 瑞枝
滝の水白き光となりしぶく     白岩 敏秀
梅雨晴れや虹の松原遠く見て    渡邉 春枝
虎尾草を活けて十四代の窯     大隈ひろみ
城跡の涸井戸覗く夏帽子      脇山 石菖
韓よりの風か領巾振山涼し     三原 白鴉
病葉を踏んで井戸跡覗きこむ    原  和子
ひろびろと本丸の草刈つてあり   小浜史都女

 小浜 史都女 特選
城垣のなだれし石の灼けてをり   白岩 敏秀
涼風や翡翠色なる唐津焼      渡邉 春枝
馬場跡のいまも真つ直ぐ四十雀   谷山 瑞枝
   入選
壺焼の匂ひ振り切り岬径      小松みち女
夏つばめ本丸跡に宙返る      大石ひろ女
白南風や百三十の陣屋跡      谷口 泰子
焚き口のどくだみ明り廃れ窯    大隈ひろみ
片隅に扇風機置く登り窯      牧野 邦子
病葉の色の抜けゆく三の丸     稗田 秋美
岸岳の古窯を濡らす青時雨     白岩 敏秀

 三原 白鴉 特選
万緑を来て本丸の天守台      大石ひろ女
馬場跡のいまも真つ直ぐ四十雀   谷山 瑞枝
青葉風句帳に付くる丸印      金原 敬子
   入選
玄海の藍より青き夏の空      渡邉 春枝
緑蔭に来て風音を聞き分くる    谷山 瑞枝
あぢさゐや三畳ほどの籠り堂    村上 尚子
夏蝶や漁船は沖へ舵を取る     村上 尚子
城垣のなだれし石の灼けてをり   白岩 敏秀
夏草の下の焚き口廃れ窯      牧野 邦子
よき距離に島ある城址ほととぎす  小浜史都女

 渡邉 春枝 特選
病葉の色の抜けゆく三の丸     稗田 秋美
木下闇馬場にひづめの聞こえさう  吉原絵美子
滝道の湿り足裏に力込め      原  和子
   入選
大閣を忍びて啼きぬ杜鵑      新開 幸子
あぢさゐや三畳ほどの籠り堂    村上 尚子
虎尾草を活けて十四代の窯     大隈ひろみ
青田見て海見て筑肥線の旅     三原 白鴉
韓よりの風か領巾振山涼し     三原 白鴉
石垣のしるき鑿あと黒揚羽     神田 弘子
ひろびろと本丸の草刈つてあり   小浜史都女

 大石 ひろ女 特選
夏ひばり城址の空をほしいまま   篠原 凉子
玄海の藍より青き夏の空      渡邉 春枝
緑蔭に来て風音を聞き分くる    谷山 瑞枝
   入選
夏落葉嵩踏み鳴らし城址坂     脇山 石菖
白南風や百三十の陣屋跡      谷口 泰子
虎尾草を活けて十四代の窯     大隈ひろみ
梅雨の晴沖の船みな白く見ゆ    牧野 邦子
夏草の下の焚口廃れ窯       牧野 邦子
ひろびろと本丸の草刈つてあり   小浜史都女
明易し領巾振山をみづの上     村上 尚子

 谷山 瑞枝 特選
万緑を来て本丸の天守台      大石ひろ女
焚き口のどくだみ明り廃れ窯    大隈ひろみ
寄せ返す波戸の荒磯の音涼し    挾間 敏子
   入選
青葉風虹の松原つつ走り      吉田 美鈴
夏薊小さき鳥居岬道        田中 美洋
青田見て海見て筑肥線の旅     三原 白鴉
城見ゆる唐津の宿に四葩かな    江角トモ子
滝の水白き光となりしぶく     白岩 敏秀
よき距離に島ある城址ほととぎす  小浜史都女
五月晴遠くに見ゆる壱岐対馬    吉原絵美子

 田久保 峰香 特選
岸岳の古窯を濡らす青時雨     白岩 敏秀
夏つばめ本丸跡に宙返る大石ひろ女
よき距離に島ある城址ほととぎす  小浜史都女
   入選
病葉の色の抜けゆく三の丸     稗田 秋美
万緑を来て本丸の天守台      大石ひろ女
百丈の瀧音五体震はせり      三原 白鴉
白南風や百三十の陣屋跡      谷口 泰子
焚口のどくだみ明り廃れ窯     大隈ひろみ
虎尾草を活けて十四代の窯     大隈ひろみ
城垣のなだれし石の灼けてをり   白岩 敏秀

 時間に余裕のない鍛練会となりましたが、大変心配していましたお天気に二日間とも恵まれ何よりの鍛練会でした。ありがとうございました。



平成30年11月号掲載 句会報

  白魚火坑道句会 日御碕吟行句会報

安食 彰彦

平成30年11月号へ 

 十月一日、坑道句会は久し振りに日御碕吟行を行った。坑道句会は荒木古川師を師匠にして、昭和三十年頃、仁尾正文先生が始めた句会であり、白魚火の元祖になった句会である。句会の幹事は仁尾正文先生が初めてで、松浦隆義、松本林市、小林梨花さんと続いてきた。小林梨花さんが突然逝去したので、暫く休止していたが、原和子、生馬明子の両名が元句会員のみんなの要望をうけて、再開したものである。
 十月一日の日にちは随分前に決まっていたが、台風二十四号の接近に逢い、「どうしようか」と相当悩んでいたところ、当日は台風もそれ、まあまあの日和であった。
 日御碕は、國譲りの稲佐の浜を後に島根半島の西端日御碕まで、曲折する海沿いの道を行く。途中平安時代の画家「巨勢金岡」が絶景のため写生の筆を投げたという「筆投島」などの景観が眼下に見える。やがて、左に朱塗りも鮮やかな日御碕神社が現れる。社殿は決して大きいと言えないが、色彩は異彩を放つ。楼門を潜ると、正面に日沉宮(ヒシズミノミヤ)、右手の小高いところに神の宮が鎮座する。日沉宮は、アマテラス大神、神の宮はスサノオノ尊を祀る。賽銭を打ち、二拝二拍手一拝をおえて、早速それぞれ句帳になにやら書いて居る人もいる。
 神社の後方の海の中には海猫の島「経島(フミシマ)」が見える。経島では十一月中旬頃海猫が帰来するが、その数五千羽と言われ、この地で越冬、三月初め頃恋の季節になり、四月の上旬産卵、巣立ちは六月の中旬が最盛期、そして七月中旬から下旬にいくつかの群れになって北上、北海道、サハリン、千島列島の沿岸に移動する。丁度、この句会の十月の頃は、海猫は留守の頃である。
 日御碕神社から岩場を歩いて数分行けば、真っ白な日御碕灯台が日本海に向かって屹立している。海面からの高さは六十四メートルで東洋一を誇っている。灯台の上に若い頃は登って広い日本海を眺めたものだが、私はもう登れない。当日は台風二十四号の余波で、風が強く、荒波が岸壁に打ちつけ、灯台の敷地には入れなかった。日御碕灯台に行く途中には壷焼き、烏賊の丸焼きなどお土産を売る店や、レストランもたくさんあるが、残念ながら台風のためシャッターを下ろしていた。灯台から下に見える断崖は、石英角斑岩の柱状節理であり、荒波と対峠して居る景観は壮観この上もない。
 吟行を終えるとまずは日御碕の高台の綺麗なホテル「ふじ」のロビイに集まり、出雲松島に打ち付ける白波を眺め、日御碕灯台の見える一室で、豪華な昼食をゆっくりとり、少し眠たくなるような気持ちの時間に、句会へと移った。

 安食 彰彦 特選
清秋の風とくぐりぬ朱の楼門     渡部 幸子
手の届くところに秋の日本海     荒木千都江
   入選
秋天を突く灯台の白清し       今津  保
秋高し拝む神に鳶の笛        渡部 清子
深秋や空に応ふる海の色       荒木千都江
四百年の色変へぬ松日沉宮      船木 淑子
日の沈む聖地の御碕もみぢ晴     久家 希世
灯台は見上ぐばかりや小鳥来る    渡部 清子
水の秋鯉の寄り来る神の池      樋野 洋子
銅葺きの古き末社や薄紅葉      船木 淑子
岬鼻に砕くる波や海桐の実      三原 白鴉
朱の楼門色なき風と潜りけり     船木 淑子
袈裟懸に秋の灯台鳶の影       久家 希世
小鳥くるシャッター街へ日の差して  渡部 幸子
灯台の白さを増して秋うらら     生馬 明子
群青の海へ色なき風渡る       今津  保
金風や膝つき仰ぐ御製の碑      渡部 幸子
賽をうつ音のカチャリと涼あらた   樋野久美子
秋日濃し宮に丹塗りの随身門     牧野 邦子
色変へぬ松を透かして朱の回廊    樋野久美子

 久家 希世 特選
清秋の風とくぐりぬ朱の楼門     渡部 幸子
湧水の絶えぬいしぶみ新松子     樋野久美子
   入選
色変へぬ松かこみたる岬の宮     安食 彰彦
銅葺きの古き末社や薄紅葉      船木 淑子
白秋や海風走る朱の楼門       山本 絹子
岬宮の朱塗り鮮やか風は秋      安食 彰彦
色変へぬ松を透かして朱の回廊    樋野久美子
松韻や潮の目くきと野分晴      原  和子
野分波阿国丸とふ漁船かな      原  和子
海猫の留守の経島秋高し       安食 彰彦
御手洗のこぼるる水も澄めりけり   今津  保
十月の日差し真白き灯台へ      牧野 邦子

 生馬 明子 特選
色変へぬ松を透かして朱の回廊    樋野久美子
灯台の上ゆく秋の雲疾し       三原 白鴉
   入選
秋日濃し宮に丹塗りの随身門     牧野 邦子
秋天を突く灯台の白清し       今津  保
深秋や空に応ふる海の色       荒木千都江
海猫の留守の経島秋高し       安食 彰彦
白秋や海風走る朱の楼門       山本 絹子

 渡部 幸子 特選
爽籟や丹塗りの宮に日の差して    原  和子
朱の楼門色なき風と潜りけり     船木 淑子
   入選
灯台の動きゐるかに秋の雲      生馬 明子
群青の海へ色なき風渡る       今津  保
湧水の絶えぬいしぶみ新松子     樋野久美子
松韻や潮の目くきと野分晴      原  和子
賽をうつ音のカチャリと涼あらた   樋野久美子
台風の逸れて聖地の波高し      山根 恒子
色変へぬ松を透かして朱の回廊    樋野久美子
灯台の上ゆく秋の雲疾し       三原 白鴉
日本海潮は七色とべらの実      山本 絹子
袈裟懸に秋の灯台鳶の影       久家 希世
秋日濃し宮に丹塗りの随身門     牧野 邦子
をろがみて御製をなぞる天高し    山根 恒子
白秋や海風走る朱の楼門       山本 絹子

 三原 白鴉 特選
秋日濃し宮に丹塗りの随身門     牧野 邦子
松籟や沖に砕くる秋の潮       牧野 邦子
   入選
銅葺きの古き末社や薄紅葉      船木 淑子
朱の楼門色なき風と潜りけり     船木 淑子
色変へぬ松かこみたる岬の宮     安食 彰彦
灯台の動きゐるかに秋の雲      生馬 明子
群青の海へ色なき風渡る       今津  保
金風や膝つき仰ぐ御製の碑      渡部 幸子
松韻や潮の目くきと野分晴      原  和子
秋天を突く灯台の白清し       今津  保
深秋や空に応ふる海の色       荒木千都江
日の沈む聖地の御碕もみぢ晴     久家 希世

当日の高得点句
  八点
色変へぬ松を透かして朱の回廊    樋野久美子
  六点
秋天を突く灯台の白清し       今津  保
朱の楼門色なき風と潜りけり     船木 淑子

 一句抄(氏名の五十音順)
岬宮の朱塗り鮮やか風は秋      安食 彰彦
深秋や空に応ふる海の色       荒木千都江
灯台の白さを増して秋うらら     生馬 明子
群青の海へ色なき風渡る       今津  保
日の沈む聖地の御碕もみぢ晴     久家 希世
松韻や潮の目くきと野分晴      原  和子
湧水の絶えぬいしぶみ新松子     樋野久美子
色変へぬ松の大木支柱して      樋野 洋子
朱の楼門色なき風と潜りけり     船木 淑子
松籟や沖に砕くる秋の潮       牧野 邦子
灯台の上ゆく秋の雲疾し       三原 白鴉
台風の逸れて聖地の波高し      山根 恒子
白秋や海風走る朱の楼門       山本 絹子
秋高し拝む神に鳶の笛        渡部 清子
金風や膝つき仰ぐ御製の碑      渡部 幸子



平成30年12月号掲載 句会報
   白岩敏秀主宰をお迎えして
第六回東京・栃木白魚火有志合同吟行会
 
中村 國司

平成30年12月号へ 

 台風一過の好天の中、白岩敏秀主宰、三原白鴉編集長補佐をお迎えして、「鹿沼秋まつり」吟行会が盛大に催されました。
 鹿沼秋まつりは二〇一六 年にユネスコに登録された日本の無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」三十三件のひとつで、「鹿沼今宮神社祭の屋台行事」という名称です。江戸期を含め、明治・大正・昭和・平成まで、築造された屋台(山車)は二十七台あり、それが今宮神社境内に繰り込み、勢揃いして提灯を点すさま、また順次鳥居をくぐって市中に繰り出すさまは、その奏でるお囃子と共に時代絵巻を見るような美しさ、武家社会に秘められた厳かさを感じさせます。
 鹿沼市では、神社行事を一日目に、市民パレードを二日目に設定して観覧の便宜を図っていますが、両日をついやして楽しみたいところです。
 また鹿沼市は、松尾芭蕉の「奥の細道」の旅の通過地としても知られています。どこに泊したかは定かではありませんが、翁の着用した笠を埋めて祀ったという塚が、「光太寺の笠塚」として遺っています。寺は鹿沼市を見下ろす西方の山の中腹にあり、笠塚吟行中は折からの祭囃子が風に乗って聞こえてくるという僥倖に恵まれました。
 なお栃木県内では「鹿沼秋まつり」の他に「烏山の山あげ行事」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。昨年から「山あげ俳句全国大会」が催され、当地に縁深い黒田杏子先生や今瀬剛一先生が選者となり、「山あげ」を全国季語にするべく盛り上げているところです。

以下当日作品をご鑑賞ください。
 白岩敏秀主宰作品
秋高し鹿沼をとこの祭足袋
諸家作品(五十音順 *印は白魚火入会予備軍)
彫刻屋台廻す掛け声秋暑し      秋葉 咲女
秋暑し彫刻屋台集合す        秋葉 節子
惜しみなく秋日賜り秋祭       阿部 晴江
軽トラに荷台神主秋うらら      天野 幸尖
秋祭氏子の意気がほとばしる     植松 信一
秋高し旅の始めの芭蕉笠塚      内山 修平
くるひなき組子の建具秋屋台     江連 江女
ぶつつけてふ囃子を煽る秋扇     加茂都紀女
台風は「ぶつつけ」を避け通りけり  河島 美苑
秋日透く屋台格子の囃子方      菊池 まゆ
竹の春古刹鹿沼を一掬ひ       熊倉 一彦
手古舞の少女に送る秋扇       小嶋都志子
手古舞の紅鮮やかに菊日和     *斎藤  光
秋祭道に拾ひし根付鈴        齋藤  都
踊り念仏めけるぶつつけ秋祭     柴山 要作
都より句友迎へて秋まつり     *島方 正敏
お囃の中を列車の滑り込む      杉山 和美
コスモスの石階段に六地蔵     *鈴木 英子
秋まつり鼻すじ白き小若衆     *鈴木 一恵
彫刻屋台飛龍息吐く秋祭       髙島 文江
秋まつり路地の薬師は寂として    鷹羽 克子
竹を背に火伏神社の秋深し      田所 ハル
子を抱き祭の山車につき行ける    田原 桂子
秋空へ梯子掛けたる屋台かな     寺田佳代子
秋暑し龍の彫物眼を剥きて      富岡のり子
とりいどと読む鳥居跡秋高し     中村 國司
秋高し路地裏に聞く遠囃子      中村 早苗
若衆の地下足袋白し秋祭       西山 弓子
競演の屋台囃子や秋の辻       萩原 一志
日光線右手刈田の続きをり      橋本 晶子
秋祭り会所にカレーの匂して     原 美香子
秋の日を透かす彫刻屋台かな     星  揚子
爽籟や楓の影を笠塚に        星田 一草
秋暑し競り集ひたる彫り屋台     松浦 玲子
豊年の山車を励ます囃子連      松本 光子
秋草を飾る屋台の曾所かな      三原 白鴉
天高し肩で風斬る女衆        本倉 裕子
手古舞の少女のえくぼ花芙蓉     谷田部シツイ
苔むせる小さき社の初紅葉      渡辺 加代



平成30年12月号掲載 句会報

  旭川白魚火「鷹栖句碑の森」吟行会

淺井ゆうこ

平成30年12月号へ 

 九月一日、旭川白魚火会の鷹栖吟行が「鷹栖句碑の森」にて催された。旭川句会から七名、鷹栖句会からは五名が参加。折しも、森のお社の年に一度の例大祭の日、ところ狭しと御供物の並ぶ神社へお参りをしてから吟行が始まった。まずは全員で、西本一都先生とタカ女先生の句碑が並んでいる小道へ。山牛蒡の実のみずみずしい紫色が、前日の雨の気配を残した木々の中でひときわ目を引く。タカ女先生が句碑の森へいらっしゃるのは久しぶりということで、ゆかりの深い二基の碑を懐かしげに撫でていらした。その後、参加者はめいめいに秋の野山へ。
 色とりどり大小さまざまの茸が、切株の断面や苔の中に、ときには句碑にもたれるようにしてひょっこりと顔を出している。散策する方、腰を落ち着けて景色を観る方、例大祭へと参加する方。手袋の上からでも血を吸いに来るパワフルな野山の蚊をものともせず、それぞれに森の秋の日を楽しんだ。
 句会の会場となる玄穹庵ではめいっぱいの蚊取線香を焚き、煙の中で翠峯先生のご用意くださった西瓜や茹でとうもろこしをほおばり、存分に夏のなごりを惜しんだ。
 昼食後、各自三句投句。選句、選評。翠峯先生が、まことさんの「虫の秋碑文が守る卵あり」にふれ「碑の文字の彫りつけてあるところは、よく虫の栖になっている。ホースの水くらいではなかなか取れず、大変難儀なので忌々しく思っていたが、こういうとらえ方もあるのか、ときづいた。」とおっしゃっていた。百基からあるという森の句碑は確かに、洗われたようにつるりとしてどれも綺麗であった。この広大な森の句碑を守っていらっしゃる鷹栖の皆さんのご苦労を思った。
 例大祭のはじまる前、旭川市内から出張して来たという神主さんとお話をし、鷹栖句会の方がタカ女先生を紹介すると、「坂本先生ですか?」と、大きな声を上げられた。偶然にも、神主さんはタカ女先生の門下の方の弟さんであった。お姉さんはすでに鬼籍に入られているということだったが、まさに「古き社が人つなぐ」秋の日の偶然の出会いを、双方大いに喜ばれた。

 一句抄
柏手に祝詞はじまり初もみぢ      平間 純一
新涼や久方に訪ふ一都の碑       坂本タカ女
山頭火句碑空蝉の句読点        藤原 翠峯
蜻蛉の学び上手や句碑の森       吉川 紀子
重陽や武四郎の大首飾         山田 敬子
蚊遣焚く玄穹庵の句座楽し       今泉 早知
小鳥来る句碑の小径の男坂       石川 純子
万緑や縄文の先祖の声         中村 公春
天高し古き社が人つなぐ        西中 裕一
句碑に寄り添ふてゐるかにきのこあり  畑山 禮子
玄穹庵ひと回りせる鬼蜻蜒       若井真知子
句碑なぞる手に別れ蚊の二匹をり    下吉まこと
なに用かありて蟇ゐる男坂       淺井ゆうこ

 吟行の五日後の九月六日早朝、震度七の胆振東部地震発生。ブラックアウトにより全道が真っ暗闇。四一人が死亡、六九一人がけがをした。建物被害一万四千棟の被害だった。未だに四五八人が避難所生活を余儀なくされている。合掌。


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