最終更新日(update) 2016.12.01
平成28年 白岩敏秀 作品
田 の 神 陶 器 市 白   鯨
灯台の影 春 寒 し 口   笛
西   施 仔   牛 一番滑走路
臨時バス 体 重 計 牧   牛

平成28年12月号抜粋の目次へ
平成28年12号に掲載

    
   牧  牛

生き生きと生まるる朝のいわし雲

牧牛に一瞥されて天高し

とんぼ飛ぶ日暮れの空を汚さずに

さざ波は風のかたちに秋の暮

帰路はもう星の出てゐる曼珠沙華

虫時雨海のごとくに夜空あり

更けてより雨の音聞く夜長かな

台風の名残や風の雑木山

平成28年11月号抜粋の目次へ
平成28年11月号に掲載

     
    体 重 計

海月干るひとに触れたる罪と罰

青蚊帳の昭和のなかへ眠り落つ

をんな去るプールサイドの椅子濡らし

間違ひは体重計に秋暑し

竹林の竹の青さも涼新た

盂蘭盆や水色をして空暮るる

濁流に跳ねつつ鮎の落ちゆけり

ゆるやかに高さ上げゆく秋燕

平成28年10月号抜粋の目次へ
平成28年10号に掲載

    
   臨時バス

全円に投網の沈む鮎の川

草いきれ抜くれば水の匂ひけり

さざ波のごとく鳴き出す朝の蝉

藍染の闇の来てゐる青葉木菟

何故々々と問ひくる汗の子の真顔

緑蔭の円座に起こる笑ひ声

折り返す海水浴の臨時バス

朝焼けのさめゆくなかを雀飛ぶ

平成28年9月号抜粋の目次へ
平成28年9月号に掲載

     
    一番滑走路

夏つばめよぎる一番滑走路

麦笛の音の単調空へ吹く

六月のはじまる赤い靴履いて

鹿の子の日暮れて森に帰りけり

勾玉のかたちに峡の植田澄む

山里をふるさとにして蜻蛉の子

突き出され曲線となるところてん

水馬水輪のなかに暮れてゐる

平成28年8月号抜粋の目次へ
平成28年8号に掲載

    
   仔  牛

洗顔の水よく跳ねて夏来る

ポケットに隠しごとなき更衣

放牧に仔牛の混じる五月かな

一村といふも五六戸若葉雨

薔薇剪れば夜雨の雫こぼしけり

新築の木の香子の声夏つばめ

大山の北壁はしる青嵐

万緑へ着陸の機首下がりけり

平成28年7月号抜粋の目次へ
平成28年7月号に掲載

     
     春 寒 し

スケッチの空水色に梅日和

川音へ傾いてゐる蕗のたう

下萌や洗車ホースを巻き戻す

一張羅ひろげ飯蛸干されゐる

啓蟄の夜をあかあかとエアポート

秒針の絶頂となる春の昼

起ち上がる声を力に春炬燵

弔辞書く一字一句に春寒し

平成28年6月号抜粋の目次へ
平成28年6号に掲載

    
   灯台の影  

短日や橋の途中のつむじ風

夕焚火巡査ちらりと見て通る

トンネルの向かふが見えて初山河

制服の整列の紺出初式

枕木を照らす寒灯列車過ぐ

薪割の楔しめらす寒の水

頬杖に雪降る迅さ見てをりぬ

二月来る灯台の影海へ伸び

平成28年5月号抜粋の目次へ
平成28年5月号に掲載

     
     春 寒 し

スケッチの空水色に梅日和

川音へ傾いてゐる蕗のたう

下萌や洗車ホースを巻き戻す

一張羅ひろげ飯蛸干されゐる

啓蟄の夜をあかあかとエアポート

秒針の絶頂となる春の昼

起ち上がる声を力に春炬燵

弔辞書く一字一句に春寒し

平成28年4月号抜粋の目次へ
平成28年4号に掲載

    
   灯台の影  

短日や橋の途中のつむじ風

夕焚火巡査ちらりと見て通る

トンネルの向かふが見えて初山河

制服の整列の紺出初式

枕木を照らす寒灯列車過ぐ

薪割の楔しめらす寒の水

頬杖に雪降る迅さ見てをりぬ

二月来る灯台の影海へ伸び

平成28年3月号抜粋の目次へ
平成28年3月号に掲載

     
     白   鯨

塾の子の焚火に寄つて帰りけり

晩節の美しくあり冬もみぢ

白鯨のかたちに山の眠りけり

枯菊のはつかの色の焚かれけり

短日の片頬ばかり日の当る

伐採の杉が杉打つ冬の山

木枯や三角に立つ夜のナプキン

葛湯してとろりと重くなる夜更

平成28年2月号抜粋の目次へ
平成28年2号に掲載

    
    陶 器 市  

朝霧に濡らす出荷の花の束

図書館の窓際の席文化の日

立冬の音の触れ合ふ陶器市

間伐の丸太転がる冬はじめ

木の実降る乾きし音の山の昼

蟷螂の遠くを見つつ枯れゆけり

村を出る十一月の川の音

落葉降る外野の芝の自由席

平成28年1月号抜粋の目次へ
平成28年1月号に掲載

     
     田 の 神

一行詩のごとくに胸の赤い羽根

木洩れ日の明るさ潜る葡萄狩り

豊かさを振分けにして稲掛くる

田の神を送りし畦の草紅葉

夜寒さや弦のかたちに湖岸の灯

てのひらに幹のぬくもり木の実降る

破芭蕉長慶庵は荒れにけり

ゆく秋やまだ落ちきらぬ砂時計

禁無断転載